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大企業が取り組むDXの実現方法―コロナ禍を乗り切るDXの核心にせまる―

セミナーレポート 2021.01.11

2020年7月8日、ビザスク主催のオンラインセミナー「大企業が取り組むDXの実現方法~コロナ禍を乗り切るDXの核心にせまる~」を開催しました。


このレポートでは、DXへの変革を成功させるために必要な組織のあり方や取り組みについて、株式会社KADOKAWA Connectedの代表取締役社長としてKADOKAWAグループのデジタル化戦略推進を一手に担い、DX戦略をリードしてきた各務茂雄氏にご登壇いただいたセミナーの講演内容をお送りします。

Digital Transformation(DX)とは?

DXには様々な定義がありますが、簡単に言うと、ITを使って世の中を良くすることです。その本質は、私が新卒で社会人になって初めてコンピュータを触った1994年から、実はまったく変わっていないと捉えています。昨今、DXの話題を耳にする機会が増えていますが、それはテクノロジーが進化し、コストが下がったことによって広範囲に広がってきているからでしょう。本日は、まずDXの本質と優先順位、そして基本的なアプローチについて紹介し、さらに各論点について可能な限り深く話していきたいと思います。

DXの本質と優先順位

「y=ax+b」


これは、DXの目的を数式として簡単に表したものです。「y」は、アウトカム、目の前の利益と将来の利益のために資産化できる何かのことです。続いて「x」は投下資本、「b」は既存ビジネスのアウトカムです。そしてDXに関するものが「a」となります。これを高速回転運動係数、スピード×品質と定義しているのですが、このaをいかに高めて、yを増やしていくのかが重要です。



一方、DXを推進する上で何がうまくいかないのでしょうか。それは、縦型組織と横串組織の接点管理です。DXに限らず、例えばクラウドの導入促進や、働き方改革の推進においても同じで、縦と横の接点をどうマネジメントしていくのか、非常に難しいといえます。


これができている企業はどこでしょうか。それは、GAFAMです。まずGAFAについては、そもそもデジタルネイティブのビジネスモデル、ワークスタイルです。そのため、DXというものがそもそも必要ではありません。一方で、Microsoftは2015年前後にオンプレミスのライセンス販売から、クラウドサブスクリプションの企業へと変貌を遂げました。そこに至るまで非常に苦労をしてDXを行い、現在の成功があるのです。GAFAMレベルを目指していくことが、DXの本質なのではないかと思います。

DXの構造

DXを因数分解すると、まず「攻め」と「守り」に分かれます。さらに、それぞれ「個別」と「プラットフォーム」があります。



次に、分解した4つにおいて、重要度と着手容易性を見ていきます。まず「攻め×個別」、これは個別のデジタルビジネスを立ち上げることですが、重要度・着手容易性、共に○です。次に、「守り×プラットフォーム」、会社全体をデジタルの力を使って生産性を上げていくこと、つまり働き方改革です。これは、重要度は○ですが、会社全体に広げることは難しいため着手容易性としては△です。


一方、「守り×個別」、これはShadow ITですね。個別最適化は簡単にできるため、着手容易性は◎、しかし重要度としては△です。「攻め×プラットフォーム」、これはGAFAMのビジネスモデルであり、皆さんが目指すDXの最高峰で、重要度◎、しかし非常に難しく着手容易性は×となります。


では、これらをどのような順番で着手すべきでしょうか。


(1)「守り×プラットフォーム」で、社員の力をGAFAレベルにする
(2)「守り×個別」を事実上なくす
(3)「攻め×個別」を爆速で実行できるようにする
(4)「攻め×プラットフォーム」に今のノウハウを使い挑戦する


このような順番で進めていくといいでしょう。そして、今回特に深く掘り下げたいのが、(1)と(2)です。まずは全社で守りのDXをきっちりと進めていくことが、DXの基本のキだと思います。

守りのDXの基本的な考え方

守りのDX、それはデジタルを使った経営改革のことです。これを進めるには、基本的に5つの項目があります。


1つ目は、「行動規範を明確にする」、行き先はどこかを決めるということです。次に、「仕事の役割を明確にする」、誰がどういう役割をするのかをハッキリと決めます。役割を決めたら、連携を高めるために「コミュニケーションを最適化する」。続いて、「人事制度を実力主義にする」。そうすると、モチベーションも上がります。そして、「ROB(リズム・オブ・ビジネス)を明確にする」ことで、この経営改革のサイクルが回っていきます。これが、守りのDXです。


次に、それぞれの項目について深掘りしていきます。

1.行動規範を明確にする

行動規範は、経営戦略と表裏一体です。経営戦略とは、どの土俵で闘うのかということであり、行動規範はそれをどういう行動で実現するのか、ということですが、ここが一体化していなければ、会社としてはうまくいきません。


たとえ非常に素晴らしい行動規範を定めていたとしても、現場の実態とかけ離れていれば、それは絵に描いた餅。「みんな行動規範を守っていないじゃないか」「自分たちのゴールはそこではない」と、しらけてしまいます。KADOKAWA Connectedの場合、エンジニア中心の企業文化に合った行動規範を定義しています。みなさんの会社ではどうでしょうか?

2.仕事の役割を明確にする

仕事の役割を明確にするということは、つまり、ロール型の仕事にするということです。ロール型の仕事とは、IT用語でいうとクラスメソッド。クラスというのは役割で、メソッドはそれに対してAPIとしてコールするようなことです。まず役割を明確にして、どういう切り口で連絡をすると、ど うレスポンスをするのか、このくらいまで仕事を明確にすることが大切になってきます。


そのためには、「サービスチームを作り大きな範囲で仕事を明確にする」こと、そして「ロールアサインリストを作り個人ベースで仕事を明確にする」こと、この2段階が必要になります。


まず、サービスチーム化においては、チームのサービス概要、対象顧客、顧客のペインとゲイン、提供するサービスの詳細、サービスレベル、サービスの費用、ロードマップ、連絡先、FAQがクリアになっていることが必要です。これは、AmazonのInternal Press Releaseが記載できるレベルが望ましいでしょう。


次に、ロールアサインリストを作成します。縦軸に各サービス、横軸に各ロールの表を作り、たとえばサービスAの中の、サービスオーナー、スクラムマスター、アーキテクト、エンジニア、オペレーターはそれぞれ誰が担当するのかアサインします。一人が複数のサービスや、ロールを兼務しても問題はありません。誰がどのサービスの、どのロールを担当するのかを明確にすることで、仕事の三遊間をなくします。



ロールの位置付けとしては、「広い視点⇔深い知識」、「シーズ中心⇔ニーズ中心」といった4象限で、エンジニア・オペレーターから始めて、アーキテクトまたはスクラムマスター、そしてサービスオーナーというように、その人の特性や能力に応じてアサインをしていきます。一般的にアーキテクトは発散思考が強く、技術をどんどんやっていく人。スクラムマスターについては、キッチリスケジュールやWBSを管理する、しっかり者型。サービスオーナーについては、どちらのタイプでもいいのですが、アーキテクト出身者がサービスオーナーになる場合は、必ず強いスクラムマスターをアサインするといった、チーミングが重要になります。このようにしてサービスチームを作ります。


マネジメントスキルとしては、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、ピープルマネジメントを分離して管理し、どのロールの人が、どのスキルを、どのレベルで持っているのかを定義することが重要になります。

3.コミュニケーションを最適化する

新型コロナ禍では、コミュニケーションが大きな課題となりました。押印のために出社するなど、デジタル化の遅れがクリティカルになったことは、みなさんご存知のことだと思います。コミュニケーションがオンライン化する中で、信頼貯金の低下、一人ひとりの仕事量が可視化できないという問題もありました。


そうした課題を解決するには、コミュニケーションポートフォリオの作成が有効です。急ぎ×重要な課題から、急ぎではない×重要ではない課題に対して、それぞれの内容、タイムリミット、ミーティングの有無、ツールは何を使うか、などを明確に定義し、社内に浸透させます。KADOKAWA グループでは、これをコロナ禍の前に浸透させていたことで、現在もスムーズに業務を継続できています。



そして、会話をほどよく可視化することも大事です。音声よりも、可能な限り文字にする。Slackのようなパブリックチャネルをなるべく使い、情報をオープンにする。ポジショントークできないマナーづくり、そして人事情報などセキュリティ度の高い情報は慎重に扱う。こうしたことが必要です。


情報は発信するものではなく発掘するもの、というスタンスも重要です。KADOKAWA Connectedでは経営会議の情報を全社にオープンにしており、検索すれば社員の誰もがアクセスできるようになっています。一方で、フェイストゥフェイス(F2F)のコミュニケーションを大切にする文化もあります。チームワークを高めるには信頼貯金づくりが不可欠です。そして、信頼貯金をつくるには、F2Fが重要です。コロナ禍では苦労しているところですが、様々なイベントを開催しています。


コロナ禍でKADOKAWA グループは、9割がリモートワークに対応していました。すべての意思決定はSlackで迅速に行い、必要に応じてGoogle Meetでオンライン会議を行いました。また、ほとんどの承認で電子化を進め、重要情報はWikiに集約、基幹システム等には4000人規模のVPN経由。また、ニコニコのノウハウやリソースを活かして、セミナーや社会貢献など積極的な取り組みを行いました。


ただ、デジタルだけではなくアナログも重要です。ホワイトボードを使ったディスカッションをしなければ、なかなか前に進まないプロジェクトもありますし、F2Fによる信頼貯金づくりも改めて大事だと感じています。それぞれ、通勤ラッシュを避けるよう徹底しながら、適材適所で使い分けています。

4.人事制度を実力主義にする

続いて、人事制度を実力主義にするという項目では、まずロールと給与をマッチさせることが必要です。これを決めるにあたり、どの人がどういうタイプの人材なのかをマッピングする、ピープルポートフォリオマップを作成します。これを適切なアサインメントとチーミング、人材育成へ活用しています。もちろん、すべてうまくいくわけではありませんが、発散思考・収束思考、アウトプットの大小を軸に、どの人がどういうロールに合っているのかを見ていくことが大事です。



次に給与と賞与ですが、KADOKAWA Connectedでは「給与は実力で自己申告、本人の努力で変わる」と明言しています。賞与は成果に応じて支給しますが、これはプロジェクトの良し悪しなど、運も関係します。自分の実力がどのロールであるのかを宣言して、そこに向かって努力をする人は給与が上がりますし、それで成果が出れば賞与も上がるという仕組みです。一方、実力が下がってきた、時短をしたい、ということになれば、給与減を申告することもできます。


さらに、雇用契約と業務委託の違いについて。従来雇用契約した人材には、給与+賞与+福利厚生+教育を提供しますが、業務委託については報酬+OJTによる教育のみという形態でした。それを今後は、雇用契約は年俸+福利厚生、業務委託は報酬をベースに、それぞれがレベルアップするための教育は共通して提供するという形態にしようと考えています。つまり、KADOKAWA Connectedという会社は、自己成長ができるコミュニティとして存在するということです。そこを目指してDXを推進するチームを作ると、よりアクティブにみんながレベルアップできます。

5.ROBを明確にする

最後に、ROB(リズム・オブ・ビジネス)を明確にするという項目ですが、私たちが最重要視しているのは、仕事の状況をKPT(Keep /Problem/ Try)し、改革を根付かせる仕組みです。重要会議体の設計・定期的な見直しを行っていますが、特に大切にしているのは四半期レビュー。3カ月に1回は必ずKPIを徹底しています。


基本的に確認する指標は、先行指標です。定量・定性、そしてフィードバックを行います。また、KPIやKGI、OKRなどの用語で遊ばないようにしています。そして、参加する人の責任を明確化することも大切です。可能な限り事前にSlack等で議論を終えて置き、会議のアジェンダは事前に共有すること。そして、「凄腕ファシリテーター」がいなければ、会議はゴールに向かっていきませんから、そうした人材の採用・育成を進めています。


みなさん、ネクストステップはイメージできたでしょうか。

質疑応答

Q. KADOKAWAグループのDX推進において、最初に着手した項目は?

自分たちはどこに向かっているのかを共有することです。KADOKAWA グループのベンチマークは、現時点ではAmazon、将来的にはGoogleです。彼らをベンチマークとして、自分たちはどうなるべきか、それを明言しています。そして、だいじなことは情報の可視化、風通しを良くすること。そして、コミュニケーションをスピーディーかつ正確にすることです。そのために、コミュニケーションをなるべくフラットにしています。そうすることで、機動力はかなり上がっていると思います。


Q. 大手企業がオープンな文化にシフトしていくためには、何をすべきか?

トップから情報をオープンにするというスタンスが重要です。なかなか難しいかもしれませんが、情報は音声よりも文字にするという文化を醸成することが大事です。KADOKAWAグループの場合は、社長をはじめ役員もSlackで会話をします。センシティブな情報に関しては、プライベートチャンネルで、ある役職以上に情報が行き届くようにして、どこかのチームが知らないうちに何かが勝手に決まるということがないようなプロセスを作りました。そうすることで、徐々に「文字にすると、こんなに色んな人に伝わるんだ」と、トップも含めてみんな実感するようになり、コミュニケーションがどんどんフラットになっていくのです。


Q. 現場担当者やミドルマネジメントの立場の人が、明日からできるDXとは?

2つのポイントがあります。まず、サービスチームをみなさんのチームでやってみることをお勧めします。誰が何をするかというロールを明確にすることから始めましょう。

もう1つのポイントは、自分たちのチームの中で、コミュニケーション設計に着手することです。まず、どういうコミュニケーションをしているのか棚卸しをします。一般的な報告連絡相談、雑談、ディスカッション、意思決定など様々なシーンで、どういうコミュニケーションタイプがあり、どういうツールを使うべきかを洗い出して、ボトルネックを解消していく。これは、明日からでもできることだと思います。そこで体験した内容がよければ、隣のチームへと展開し、社内に広げていくといいと思います。


登壇者プロフィール

各務 茂雄
株式会社KADOKAWA Connected 代表取締役社長

楽天、日本マイクロソフト、アマゾン ウェブ サービス ジャパンを経て、2018年10月、株式会社ドワンゴの親会社である株式会社KADOKAWAへ入社。グループCIO、執行役員 DX戦略アーキテクト局長を務める。

2019年4月に子会社として設立された株式会社KADOKAWA Connectedの代表取締役社長に就任。KADOKAWAグループのデジタル化戦略推進を一手に担い、在籍を続けている株式会社ドワンゴとのシナジー拡大、ビッグデータやAI/機械学習を活かしたコンテンツビジネスの革新・創造に力を注ぐ。

著書:世界一わかりやすいDX入門 GAFAな働き方を普通の日本の会社でやってみた。