ビザスク

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イノベーションの思考法ー不確実性のある未来社会を捉えた「機会」と「アイデア」の創出ー

セミナーレポート 2021.05.14

イノベーションを起こすためには、その種となるアイデアが重要になります。単純なアイデア創出の方法論・プロセスは近年よく知られるようになってきましたが、未来社会を見据えて骨太の事業機会を捉え、その方向性において事業・製品・サービスのアイデアを考える方法・プロセスは発展途上と言えます。


今回は、イノベーション教育の世界的にも先駆機関であるi.school(旧称:東京大学i.school)ディレクターで、イノベーションコンサルティング会社i.labの代表でもある横田幸信氏をお迎えし、大企業発の骨太な事業機会を捉えた事業・製品・サービスのアイデアを如何にして生み出せば良いのか、方法論や思考プロセス、フレームワークをご紹介いただいた、セミナーレポートをお届けします。

【1】事業機会とアイデア創出の関係性

アイデアを生み出す思考を、情報処理プロセスと捉える

「アイデアを生み出すには才能やセンスが必要で、プロセスや方法論はない」という人がいますが、私は必ずしもそう思っていません。先天的な才能がなくても、他の変数をいじることによって創造的な成果を出せるのではないか。ゼロからイチはひらめきではなく、情報処理プロセスと捉える。それが、私の信念であり、人生のテーマでもあります。


実際にゼロからイチを生み出すプロセスは複数あります。例えば世の中のプロセス論を大別すると、「技術」「市場」「社会」「人間」の4つになります。例えばR&D系の事業開発部門や、技術系戦略コンサルなど出身の方は、技術起点でモノを考えることが多いと思います。一方、経営企画など企画系の出自の部署では市場起点で見ていくと思います。最近増えているのは、社会起点や人間起点のアプローチです。SDGsに関与する領域の商品やサービス開発は、まさに社会起点のアプローチとなります。そして人間起点というのは、ここ数年話題の「デザイン思考」と言われるアプローチです。


それぞれのアプローチに専門家がいますが、結局は人のやることですから「統一理論」はないと思います。一長一短ありますから、それぞれ個性を見ながら各方法論を分解・統合して使いこなすことが大事です。ただし、定石はありますので、これから紹介いたします。


「機会領域」の設定に注力する

こちらは製品・サービスアイデア創出のプロセス図です。



横軸が思考の進むプロセス、縦軸が情報の抽象度を表します。まず、具体的な事実情報を収集し、そこから要素を抽出し、それを構造的に理解して、機会の探索をして、機会領域の設定を行う。ここで抽象度が最も高くなります。そして、機会領域からアイデアを抽出、そこからアイデアを選抜して具体化し、プロトタイプを創って精緻化をしていく。どのアプローチでとっても、世の中の優れた方法論はこういうプロセスを経ることが多いと思います。


この概念の中で最も大切なのが「機会領域の設定」です。これは抽象度が高く、具体的なアイデアを生み出す時の目印のようなものだといえます。いいアイデアを出したければ、いい機会領域の設定に注力すべきです。私が事業部のトップだとしたら、7~8割は機会領域の設定に時間をかけると思います。


機会領域の設定に注力すべき理由は大きく3つあります。ひとつは、機会領域を設定していることで、通常考えている範囲外のところに思考が飛び、思考を集中できることです。2つ目は、機会領域を設定することで、アイデア創出や選抜の前に新規性や事業の有効性について議論ができるからです。そして3つ目は、機会領域設定の段階で全社方針との整合性を担保することができるため、事業アイデアを出した後に宙に浮くことを予防できます。


また、機会領域は「目的」「手段」「ターゲット」という3種類の観点で思考して表現をしておくと、取り扱いがしやすいです。この3種類がしっかり定まったものが、事業や製品・サービスのアイデアです。機会領域は、3種類の情報すべてが明確に揃っている必要はありませんが、2種類は明らかにしておいた方がいいでしょう。



そして、設定した事業機会の中で、アイデアの創出(発散と収束)と最終的な選抜を行います。そして選抜されたアイデアの内容に合わせて、想定ユーザーインタビューやラピッドプロトタイピングを行います。


NTTコミュニケーションズ「Dropin」

i.labがご支援した具体事例を紹介します。プロジェクトテーマが「これからの働き方」ということで、「専門性の高い人材が、場所・時間の制約泣く、自由を感じながら働ける」という機会領域を設定しました。そこで、カフェや小規模コワーキングスペースの座席予約ができるアプリサービスを設計して実証実験を行っています。


こういった具体的なアプリやサービスを社内で提案すると、経営者によっては「大企業の新規事業としては小粒なのではないか」と思われる可能性もあるでしょう。そういった時に「このアプリは、こういう高尚な目的があり、こんな事業の広がりの可能性がある」といった大きなストーリーを話すためにも、機会領域の設定は有効です。

【2】不確実性をどのように取り扱うか?

「深化」と「探索」

「両利きの経営」(チャールズ・A・オライリー , マイケル・L・タッシュマン)という書籍があります。そこで言われているのが、両利きの経営は、「深化」と「探索」を自在に、バランスよく高い次元で行うことである、ということです。「深化」は既存事業でいうと利益率を高めていくということ、「探索」は新規事業開発や機会領域を探索することに当てはまると思います。既存事業も新規事業も両方なければ、企業は持続的に成長も存在もできないということです。


それを踏まえたうえで、少し大きなフレームワークを紹介します。みなさんの会社にもビジョン、つまり「中長期的な未来に向けた自社の姿」があると思います。その前提に、「中長期的な未来社会の姿と事業機会」があります。そこに向けて能動的にやっている行為が、既存事業や新製品・サービスを生み出す活動です。


ここでやや困ったことが起こります。「中長期的な未来社会の姿と事業機会」には、どうしても不確実性や不明瞭感が伴うということです。しかし、そういった不確実性や不明瞭感の中にこそ、事業機会が潜んでいます。そういう不確実性や不明瞭さを織り込んでおかないと、経営リスクが増すばかりです。


シナリオプランニング

ではそういった不確実性の高い未来社会の姿や事業機会を、どのように見ていけばいいのでしょうか。それは、大きく3つあると思います。1つめは、(A)正常変化も織り込んだ蓋然性(発生確率)の高い未来社会像の理解です。既存事業を中心とした中期経営計画は、これに基づいて設計されていたりします。2つ目は、(B)不確実性の高い領域まで含んだ未来社会像の理解です。新規事業を考える時には、ここまで織り込む必要があるでしょう。そして3つ目は、(C)不確実性があるがゆえに議論を避けがちな重要トピックの詳細検討です。自分たちの今の強みや将来やりたいことについては、ここで深掘りする必要があると思います。



特に(B)の領域について紹介したいのが、「シナリオプランニング」というフレームワークです。まずは自社が注目する、「ヘルスケア」や「働き方」のような検討テーマを設定します。次に、そのテーマに関連し「メガトレンド」と呼ばれる蓋然性が高く世の中への影響度が高いマクロな事象を100~200集めてきます。そのテーマにより強い影響を与える事象を「メガトレンドDriving Force」(メガトレンドDF)として5個程度選抜します。次に、そのテーマに対して、蓋然性が高いとは言えず不確実性が高いものの、与える影響度が高いものが見えてきます。それを「不確実Driving Force」(不確実DF)と呼びます。そして不確実DFを2つ選んで、それがどっちに転ぶのか、メガトレンドの世界観の中で、2×2で4つのパターンでシナリオを検討していくという方法です。


i.lab社内R&Dのシナリオプランニング事例「休みを起点とした⽣活様式変化」

i.lab内で「2025年頃の休みや人の生活様式はどう変化するか」というテーマでシナリオプランニングを行っている事例を紹介します。


まず、メガトレンドを「休み」「生活様式」などをテーマに300程度集めました。それらをスタッフ10名でフラグ付けした上で、私を含めた習熟度の高い数名で選抜し、影響度が大きく発生確率も高い6つのメガトレンドDFを選びました。


次に、不確実DFを2つ設定しました。1つは、「新型コロナ感染症が一気に収束するのか/断続的に再流行するのか」ということ。2つ目は、「人と話す約束をする時に、直接対面が多数派なのか/オンラインが多数派なのか」です。そして、メガトレンドDF6つの世界観の中で、不確実性DFの2×2で4象限のシナリオを検討していきます。

【3】マクロとミクロの組み合わせからの仮説推論

シナリオプランニングはマクロ視点ですが、マクロな視点だけでは、一般性の高いモノになりがちです。創造的な機会領域を設定するためには、ミクロな視点を利用することが有効となります。生活者あるいは専門家・事業関係者へのインタビューや、フィールド観察調査などが、ミクロ調査として挙げられます。さらに、Facebookなどで誰かがシェアしたことから、社会変化の兆しとなり得る個別事象を見出していくことも可能でしょう。ここからは、マクロ調査とミクロ調査の紹介をしたいと思います。


マクロ調査

i.labが4~5年前に野村総研と行った共同研究の事例をお話しします。テーマとしては「小売」「物流」「ヘルスケア」の2030年の様子を、シナリオプランニング手法で考察しました。特に、人工知能とロボット技術、移民増加がもたらす社会の変化に焦点をあてて検討しています。詳しい内容としては「誰が日本の労働力を支えるのか?」(東洋経済新報社)として出版されています。


もう一つ紹介したいのが、「フューチャーマップ」です。これは蓋然性の高い社会変化の全体像を描くもので、今起きている大きなトレンドを因果関係で結び、分野ごとに整理したものです。これによって、社会・生活者の変化、相互作用の様子を時間軸で可視化することができます。


ミクロ調査

ミクロ調査の代表的なものとしてはインタビューがありますが、これは単に話を聞けばいいというものではありません。インタビューの目的によって、調査対象をポートフォリオで管理した方がいいでしょう。「(1)既存ユーザー」「(2)エクストリームユーザー」「(3)先端ユーザー・専門家」「(4)想定ユーザー」の4つの区分です。



i.labが機会領域の探索時に行っているのは、(2)エクストリームユーザー、つまり極端な生活様式や価値観を持つ人々のセグメントです。ここで大切なのは、共感を重視したインタビューをすること。変わり者を見に行くといった姿勢では、あまり発見はないでしょう。また、エクストリームユーザーにインタビューを行う目的としては、変化の兆しや未来の市場に対する示唆を得て、自らの固定観念のリフレーミングをするためです。極端な属性に見えても、彼ら彼女らは強い価値観や社会通念に基づいて生活を営んでいます。だからこそその発言や行動の中には、本質的な問いかけや知見を含んでいる場合が少なくないのです。


i.lab社内R&Dの事例「休みを起点とした⽣活様式変化」

先ほど紹介した社内R&D事例は、メガトレンドを捉えたマクロな視点と、先駆的な生活様式を体現しているエクストリームユーザー10名にインタビューをするというミクロな視点の掛け合わせから、未来の生活様式を描いていっています。インタビュー対象者としては、例えば通勤をテーマにした場合、普段から通勤の機会を積極的に遊び倒している人、数年前に北海道に移住してリモートワークを実現しており通勤という概念がない人などです。


こうした、シナリオプランニング×エクストリームユーザーインタビューを通じたwith/afterコロナの社会像の考察は、継続して進めていきたいと考えています。

サマリー

最後に、本日お話ししたことをまとめます。


「【1】事業機会とアイデア創出の関係性」では、アイデア創出プロセスは情報処理プロセスと捉えて設計・管理が可能であること、いい機会領域を決めるといいアイデアが生まれること、そして目的・手段・ターゲットから2つをゆるく定めることです。


「【2】不確実性をどのように取り扱うか?」では、不確実なものを無視しないことの重要性、そして不確実性を取り扱う方法論・プロセスの一例としてシナリオプランニングを紹介しました。


「【3】 マクロとミクロの組み合わせからの仮説推論」では、不明瞭さを解消するためにはインタビュー調査が有効であること。その際、極端な生活様式や価値観の人に注目し、未来の常識へとリフレーミングを試みることが大切だということをお話ししました。

質疑応答

Q. 機会領域とコンセプトの違いは何でしょうか?

私なりの現時点での理解は、機会領域というのはアイデアを出す前から存在できる概念で、コンセプトは既に出ているアイデアを説明する時に使う概念だと思っています。機会領域からアイデアを見ると100も200も可能性がありますが、アイデアを出した後に「このアイデアのコンセプトは何か」というと、1つに定まりますよね。1本筋が通った状態の抽象概念がコンセプト、それに対して色々なポテンシャルがある状態での抽象概念が機会領域だと私は定義しています。ただ、専門家によって定義は異なると思います。


Q. 不確実な事象には気付かない可能性があります。不確実性に気付くためのコツはあるのでしょうか?

プロジェクトがスタートして調査の時点で初めて探すのではもう遅いです。日常生活の中で常にそのアンテナを立て、ストックしておくことをお勧めします。日常生活で自分が見聞きすること、身近な人がふと呟いた言葉、電車で見かけたこと、一見するとノイズなモノの中で、キラッとしたものがあれば、メモを取るようにしています。


Q. メガトレンドはどのように集めているのでしょうか?

「戦略ファームが占う2040年」といった書籍を10冊くらい購入します。そう言った書籍の目次は、メガトレンドのタイトルになっているはずです。10冊中5冊で取り上げられているトピックは、蓋然性が高いでしょう。シンクタンクなどに依頼をする方法もありますが、書籍を購入するのなら数万円で済むのでお勧めです。


Q. エクストリームユーザーは、どのように探せばいいでしょうか?

2つ方法があります。1つは、ビザスクにお願いすることです(笑)。もう1つは、「変わり者の友人知人は変わり者」ということで、直接の友人知人を当たっていくことです。「こういう目的で調査をしたいので、こんな人を知らないか」と色んな人に聞いて、そこからリスト化します。その上で、まずは分かる範囲でその人の特性を見て吟味し、場合によっては事前にメールのやりとりを行い、数千円の謝礼でアンケートに答えてもらい、さらにお金を払ってインタビューをします。それが7~8割ですね。残りの2~3割は、ブログやSNSで情報発信をしている人に当たります。そういった情報発信している方は、自分のライフスタイルや価値観を知って欲しいという方がほとんどだと思うので、丁寧にコミュニケーションを取れば、応じていただけます。

登壇者プロフィール

横田 幸信
イノベーションコンサル会社i.labマネージング・ディレクター。東大発イノベーション教育プログラムi.schoolディレクター。早稲田大学ビジネススクール(WBS)非常勤講師

九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて経営コンサルティング業務に携わる。その後、イノベーション教育の先駆者である東大発イノベーション教育プログラムi.school(旧名:東京大学i.school)では、2013年度よりディレクターとして活動全体のマネジメントを行っている。イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、コンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。著書「INNOVATION PATH」(日経BP社)は、日本・台湾・中国の3カ国で出版・翻訳されている。