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SDGsが拓くイノベーションー事業開発における活用方法とはー【ウェビナーレポート】

セミナーレポート 2021.04.16

SDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されてから5年、その活用は上辺のものから、本質的な活動へと深化が求められています。単に社会課題の羅列としてではなく、ビジネス機会の宝庫としても捉えることが可能で、先の読めないVUCAの時代において、バックキャスティングの思考法での事業アイデアの創出が注目されています。


今回は、サステナビリティとイノベーションを専門としたブティックファームを経営されている今井健太郎氏によるオンラインセミナーを実施いたしました。SDGsやサステナビリティを、どのように新規事業や事業開発に取り入れるか、お話しいただいた模様をレポートします。

SDGsとは

2030年、みなさんの企業や社会、政治、経済がどうなっているか、どうなっていたいのか、想像したり考えたりみたりすることはありますか?SDGsとは、国連の持続可能な開発目標のことで、2030年にどういう世界を実現したいのかをまとめて、国際社会全体の目標として採択されたものです。



その特徴としては、「ルールや規制ではなく目標である」「世界共通の言語・旗印」「17の目標と169のターゲット、232の指標から構成」「途上国だけではなく先進国の課題もスコープ」「世界の課題であると同時にニーズの宝庫」「SDGsの目標は相互に関連しあっている」といったものがあります。企業や団体の規模の大小にかかわらず、企業経営においても活用できる特徴を内包しています。


この中で個人的に特に興味深いと思うのが、SDGsは「ルールや規制ではなく目標である」という特徴です。17個の目標に対して、山の登り方について決まりがあるわけではありません。いわゆるトップダウン的なものではなく、ボトムアップで大きな目標に立ち向かっていこうというマネジメントモデルが面白いと思っています。

“妄想”が価値を生む

事業のアイデアを考える時、時系列で2つの方向がありますよね。1つは、「現在の延長線上」で考案する方法。そしてもう一つが、未来にありたい姿を考え、そこから逆算(バックキャスティング)して策定する方法です。未来を考えていく時、ひとつ重要になるキーワードが妄想力や構想力です。SciFuturesというアメリカのコンサルティング会社は、多数のSF作家が所属しており、顧客に対してそれぞれの物語を提供しています。これは、まさに妄想が価値を見出す、エポックメイキングな事例だと思います。


妄想が価値を生むというところでは、オンラインセミナーのように、日本全国の方々とリアルタイムでコミュニケーションを取るということも、数百年前には魔法のような話だったことでしょう。過去の妄想が、現実のものになっていく機会が、これからどんどん増えていくはずです。

デザイン・フィクション

ここで「デザイン・フィクション」という考え方を紹介します。サイエンスフィクションとは、架空のテクノロジーが生まれた時に、どのような物語が展開されるのかを考えるものです。一方、デザイン・フィクションとは、架空の物語や世界観が生まれた時に、そこで受け入れられるテクノロジーやプロダクトとは何かを考えるものです。



バックキャスティングやSDGsは、デザイン・フィクションに近いと思います。2030年にどういう世界になっているか、どういう世界であるべきかという世界観や物語を想定した時に、そこで受け入れられるテクノロジーやプロダクトは何か、そういう発想でビジネスを考えていくという方法で活用できるのではないかと思っています。


また、「世界観」もひとつのキーワードとなります。競合リサーチを行う際、現在の延長線上である決算情報ではなく、彼らが掲げている経営戦略や中期経営計画から世界観を調べ、そこからビジネスを創るという方法もよく使われています。

SDGsが注目される背景

バックキャスティングとは、現在の延長線上ではないため、必然的に非線形の形になります。非線形の成長は、別の表現をするとイノベーションといえますが、そういったことを様々な企業や機関が渇望しているからこそ、SDGsが今注目をされているのではないでしょうか。経団連がSociety5.0の実現を通じたSDGsの達成を柱として、企業行動憲章を改定したり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、企業のSDGsの取り組みに対して金融の面からサポートすることを表面しています。


もうひとつ日本での動きとしては、新学習指導要領にSDGsが盛り込まれるようになったことです。SDGsの考え方を学校の中で学んだ「SDGsネイティブ」が社会に出てくることも、今後の大きな変化として考えられます。


具体的な活用方法~SDGsはビジネスを検討する時の切り口となる

続いて、具体的な活用方法について深掘りをしていきます。SDGsの活用方法は、大きく4つ。「事業開発」「ブランド構築」「情報の整理・評価」「経営戦略」です。本日のテーマは事業開発なので、そこに関連することを紹介していきます。


事業開発にはフェーズがあります。これはどんな事業であっても基本的には同じで、目的・ビジョンからコンセプト・アイデアを創る「0→1」。コンセプトやアイデアから商品・サービスを創って市場に投入する「1→10」、そして普及・拡大をしていく「10→100」です。特に新規事業の足掛かりになるのは、「0→1」のフェーズです。


よく新規事業でありがちなのが、「このマーケットが伸びているから、このテクノロジーが注目されているから」という理由で始めることです。しかし、外発的な動機で始めた新規事業というのは、非常に脆いです。「こういう課題を解決したい」「こういう社会を創りたい」というビジョンやミッション、つまり内発的なところから事業を創る目的を持つことが重要です。


そうはいっても、すべての人が強い想いやビジョンを明確に持っているとは限りません。たまたま新規事業開発室に配属された人もいるでしょう。そういった方にも、SDGsを活用していただけると考えています。自社の強みとSDGsを掛け合わせた時に何ができるのか、ビジネスを考える時の発想方法の1つとして活用することができるでしょう。

問題と課題

では、SDGsとの掛け合わせとはどういうことなのか、説明をしていきます。重要な概念として、「問題」と「課題」があります。「問題」というのは、まさにSDGsで掲げているような貧困問題や飢餓問題などのことです。たとえば飢餓問題をビジネスで考えると、粒度が大きすぎます。これを食品の問題と捉えて、食品が捨てられてしまっていることなのか、需要と供給に対して柔軟に価格が調整されていないことなのか、ラストワンマイルで届かないことが課題なのかなど、大きな問題を因数分解して適切な粒度感、つまり課題に落とし込んだうえで、解決すべきことにフォーカスし、それが自社の強みと掛け合わせられないかについて考えていただきたいと思います。


課題を深掘りする時、たとえば頭痛を訴えた時に頭痛薬を渡すだけでは浅薄です。頭痛の原因が寝不足ならば、睡眠薬の方が必要でしょう。さらに寝不足の原因がストレスなら、娯楽が必要なのかもしれません。では、ストレスの原因は何かと考えると、職場環境に何かあり、そこから解決する必要があるのかもしれません。そのように、SDGsで掲げられている大きな問題を、取り組むべき課題の粒度感になるまで因数分解していくのです。


SDGsでは17のゴールの下に、ターゲットや指標といった粒度感の細かいモノもあります。それでもビジネスとしては粒度が大きいと思いますが、それも活用して、事業のコンセプトを生み出していただきたいと思います。


課題の深掘りについての具体事例

「ストリート・ディベート」という取り組みがあります。これは木原共さんという方が路上生活者と接する中で生み出したものです。路上生活者については、お金がないことが課題だと考えがちです。Big Issueのような取り組みもありますが、「物乞いをするよりも恥ずかしい」という声もあります。そこで木原さんが導き出したのは、「求めているのはお金ではなく、対等な尊厳のある会話ではないか」ということでした。そうして生まれた「ストリート・ディベート」では、路上でYes/Noなど2択で答えられる社会問題を掲げ、通行人にどちらかに硬貨を置いてもらいます。これによって世論を可視化しながら、通行人との対等な会話が生まれ、路上生活者の自立支援にもつながるということです。


グローバルモビリティサービスという企業の取り組みも紹介します。世界には、クルマさえあれば仕事に就けるのに、クルマを買えない層が17億人いると言われています。真面目な働き者であっても、金融機関から融資が降りないことから、貧困から抜け出せない人々。その課題を解決するために、この企業はIoTデバイスをクルマに搭載し、そのドライバーが真面目に働いていることをテクノロジーで証明し、与信力を高めるということをしています。このように、大きな社会課題から本質的な課題を見つけ出し、そこに対してソリューションを提供する企業が増加しています。

優等生的な問いではなく、逆を考える

課題を考えるワークショップでありがちなのが、「優等生的な問いは盛り上がらない」ということです。「社会を良くするには?」という問いでは、ありふれたアイデアしか出てこないことがあります。そういう時にお勧めなのが、逆を考えることです。これが、意外と盛り上がります。


たとえば、「質の高い教育」を考えたい時、逆に「最悪の学校」は何かを考えるというやり方です。方法としては、まず学校の前提条件、例えば「キャンパスがある」「先生がいる」「定期テストがある」といったことを書き出します。次に、これらの前提条件をひっくり返し、「キャンパスがない」「先生がいない」「定期テストがない」学校って何かを考えることで、アイデアを創出するという方法です。実際にアメリカのミネルバ大学は、キャンパスがなく、世界を周遊して授業を行います。また、先生が生徒に教えるという構造ではなく、前もって出されたテーマに対して事前学習をし、ディスカッションをするというスタイルです。また、授業ごとに先生が生徒の習熟度をチェックしているため、定期テストもありません。このように、前提条件をひっくり返すことで新しいものが生まれてくることもあるので、ぜひ試してみてください。



もうひとつ、オルタナティブキャンドルという方法があります。ビジネスが生まれる時、いい側面だけではなく、必ず負の側面も生まれます。例えば自動車産業は非常に大きく、いいインパクトを社会に与えています。一方で交通事故や環境汚染など負のインパクトも生まれます。そのように負の側面から生まれる社会課題を考え、新しいビジネスを生み出すという手法も取り入れていただけたらと思います。


ブランド構築

事業開発から事業拡大フェーズでは、開発したプロダクトがマーケットに受け入れられること、つまりブランド構築が重要です。マーケティングの権威ピーター・ドラッカーの言葉に「マーケティングの最終的な目標は販売をなくすことにある」というものがあります。販売をなくすということは、こちらから売り込まなくとも買ってもらえる状態、つまりブランドを構築しているということです。


ここでは、何を目的に事業を行っているのかということが非常に重要です。人々の共感を集めるのは、何をやっているのかということよりも、何のためにやっているのか、強い「WHY」があるビジネスです。SDGsはまさに「何のために」というコンテキストやストーリーを生み出すことができます。エデルマンという調査会社のデータによると、5人に2人がビリーフドリブン、つまり社会課題等への対応によって購買行動を決定するそうです。商品購入の意思決定に、単に値段やデザインだけではなく、商品のストーリーなどコンテキストが大きく関係するようになっています。新規事業開発の際は、ぜひSDGsやサステナビリティを注視していただきたいと思います。


ここで一つ注意していただきたいのが、社会目的やサステナビリティとブランドを無理に結び付けると、予期せぬ反発を招く可能性があるということです。以前、米スターバックスでCEOが「人権・人種問題が広くアメリカ国内で議論されるべきだ」と考え、店舗でバリスタが顧客に飲み物を渡す際、人種問題を語り合うよう推奨するというキャンペーンを行いました。しかし、顧客からは「スターバックスで人種問題を語りたくない」というネガティブな反応が続出し、取り組みが即刻中止になるということがありました。企業ブランドと社会目的を無理に繋ごうとするのではなく、「フィット感」を、ぜひ意識してください。


まずは目的・ミッションを考える

SDGsに絡めた事業開発を行う時、まず何から始めるべきかというと、目的とかミッションに対して資源を集めていくことです。何のためにこの企業が存在しているのか、何のためにこの事業を行うべきか、どういう世界観を目指すべきか、まずそういった議論から始めることをお勧めします。


その議論がない中で、取ってつけたようにSDGs関連の事業開発をしてしまうと、とても希薄なものになってしまいます。企業で取り組むのならば、企業の存在意義のところから遡って考え、「それならば、当社にはこういう事業が求められているはずだ」というふうに進めていただければと思います。

質疑応答

Q. SDGsを活用した新規事業に取り組む際、消費者の視点が置き去りになっていると感じます。消費者に受け入れられる事業にするには、どういうことに気を付ければいいでしょうか?

日本では、基本的な財やサービスは、既に提供されています。それにプラスした物語やコンテキスト、社会性というものが、どんなサービスや商品にも求められていると思います。そのような点で、どんな社会課題を解決しているのかというストーリーは、消費者にも刺さると思います。


Q. SDGsをテーマに新規事業を進めていきたいのですが、経営層をうまく説得できません

事業の評価を行う時、従来はその事業が生み出す売上や利益で行っていたと思います。しかし、経済的な価値だけではなく、社会的な価値もあります。社会的価値の高い事業をすることでブランド価値が上がるかもしれませんし、従業員のモチベーション向上につながるかもしれません。上司に説明する時、経済的な価値だけではなく、それに加えて社会性という面で非財務的なインパクトがあるという説明の仕方も一つの方法です。


Q. 株価など、収益につながるような説得材料はあるのでしょうか?

SDGsに限らず、新規事業は全般的に収益性を説明するのは難しいです。不確実性の中で、粘り強くやっていくしかないとは思います。株価についてはコロナ前の2018年に調査を行ったデータがあります。SDGsの取り組みを行っている企業の株価のパフォーマンスを測定したところ、だいぶアウトパフォーマンスしていることが分かりました。ただし難しいのは、SDGsの取り組みを行っているから株価が上がっているのか、余裕のある企業だからSDGsの取り組みが行えるのか、判別はできないということです。

また、ESGの取り組みを行うことによる株価パフォーマンスは、長らく研究されている領域です。オックスフォード大学とイギリスのESG評価機関であるアラベスクが統合的に調査した結果、業績に関しては88%、株価に関しては80%近く、こうした取り組みに積極的な企業が正の相関があるという研究レポートが出ています。直近では世界銀行やGPIFもESG投資に関連したレポートを出しています。そういったデータも、説得する1つの肉付けになるでしょう。


登壇者プロフィール

今井 健太郎
株式会社KI Strategy 代表取締役

早稲田大学政治経済学部、国際政治経済学科を卒業したのち、野村総合研究所入社。 2016年、サステナビリティとイノベーションに特化したコンサルティングファーム、株式会社KI Strategy(旧ライフドラムラボ)設立、代表取締役に就任。 趣味は囲碁で、第54回全日本囲碁大学選手権にて全国制覇。 近著『クリエイティブ・イノベーションの道具箱』(雷鳥社)