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顧客起点の事業開発ー人間中心設計によるサービスデザインー【ウェビナーレポート】

セミナーレポート 2021.03.10

モノ消費からコト消費へと言われる時代においては、顧客体験の設計(=サービスデザイン)が重要です。サービスデザインにはデザイン思考をはじめとして人間中心的なアプローチが欠かせません。しかし従来プロセスとは大きくことなる概念であることから、実践に移すことが難しいと考えておられる方も多いようです。


そこで株式会社ゆめみにてサービスデザイナーとして活躍する曽根 誠氏をお迎えし、「顧客起点の事業開発ー人間中心設計によるサービスデザインー」と題したオンラインセミナーを行いました。よりよいサービスを作るにあたり重要となるデザイン思考について、具体事例を交えながら話していただいた様子をレポートいたします。

なぜサービスデザインなのか

まず、昨今サービスデザインが重要視されている理由をお話しします。


モノからコトへという変化がありますが、これはハードとサービスが一体化してきているということです。昔はモノ・コンテンツを売るというだけだったのが、やがてモノ・コンテンツにサービスを付加して売るという形になり、さらに最近ではサービスを売ってそこにモノが無料や格安で付いてくるというビジネスの形になっています。


具体的に音楽ビジネスで説明をすると、昔はCDやレコードといったメディアを売るという形だったのが、音楽を聞ける機械にコンテンツやサービスを付加して売るというiPodのようなビジネスモデルが発生しました。昨今では、Spotifyやプライムミュージックのようにサービスがそもそもあって、それを聞けるデバイスを格安で売るビジネスモデルになっています。これは収益モデルが、所有モデルから利用モデル、そして今はサブスクリプションといわれる権利モデルに変化しているということです。


この収益モデルの変化が、顧客にとっての意味の変化をもたらします。一過性の販売モデルであった時代には、メディアを視聴することでした。それが、長期の関係性を構築するライフタイムバリューモデルということになると、生活に音楽を纏う、いつでも聞きたいときに音楽が聴けるというように、顧客にとっての意味が変化しているのです。


つまり、「ものづくり」から「意味づくり」に変化しているということです。消費者にとっての焦点はモノではなく、それが持つ意味に移ってきていて、いくら役に立つ優れたデザインであったとしても、そこに「意味」がなければ使われません。そして、普及させるための「意味」は、消費者個々人の人間としての営みに深く関係しています。


サービスをデザインする方法

では、その「意味」を、どのように作ればいいのでしょうか。サービスデザインでは、人間そのものを見つめるために、「人間中心設計」の考え方を用いることが多いです。


ISOやJISで規格化されている人間中心設計のプロセスでは、まず人間中心設計の必要性の特定を行い、利用状況の把握と明示を行います。それから、ユーザーと組織の要求事項を明示し、設計による解決策の作成を行い、それが要求事項を満たしているのか評価を行います。そして評価で満たしていないとなれば、もう一度プロセスを進めていきます。


この人間中心設計のプロセスにおいて、利用状況の把握をしたり、要求事項を把握したり、解決策を施行したりする時の向き合い方として用いられることが多いのが、「デザイン思考」です。


デザイン思考の5つのモードとして、「共感」「問題定義」「創造」「試作」「テスト」があります。「意味」を明らかにしていく上では、この5つのモードを行ったり来たりする必要がありますが、その中でも特に共感と創造が大切だと私は考えています。



そして、デザイン思考のツール群には、みなさんご存知のペルソナやカスタマー・ジャーニー・マップ、プロトタイプなど、様々なものがありますが、これらはあくまで道具でしかないということを、心に留めておいていただければと思います。その手法やメソッドを使うことで、ユーザーが誰で、どんな時に、なぜ、そう思うのかを明らかにしていく必要があることを忘れてはいけません。


また、手法やメソッドを用いることで、ユーザーの困りごとが表面的に見えてくるかもしれません。そこでは短期的な課題解決に注目するだけではなく、もっと深くインサイト、なぜそう思うのかに思いを馳せることが大事です。例えば勉強が苦手なのび太くんに暗記パンを渡して、一件落着というので満足しないでいただきたいのです。のび太くんの身になって、なぜ苦手なのかを考えていくことが大事だと思います。これは、後で出てくる共感の話にもつながってきます。


このインサイトの発見について、これからケーススタディを3つお話ししていきます。

【ケーススタディ1】都市銀行

まずは都市銀行の事例、題して「こじつけたペルソナではなくリアルな利用者に憑依してインサイトを見つけた話」について紹介いたします。


◆要望と疑問

まず都市銀行様から頂いたご要望としては、「若年層の加入を増やすために、アプリのインターネットバンキング機能を充実させたい」ということでした。しかし我々は、その要望をそのまま受け取ることはしません。「若年層とは果たして誰か」「若年層は銀行をどのような存在として捉えているか」「若年層にとって、当たり前・理想の銀行体験とは何か」、これらが見えていないのに、「若者はこうだから」と決めつけるのは危険ではないかと、疑問を呈したのです。


また、組織的な背景として、その都市銀行様はアプリの知見にバラつきがあってプロジェクトメンバーの意思統一が難しいこと。ユーザーからの情報は収集しているが、フレームワークを活用した分析が難しいこと。そして、提供すべきバリューの軸やアプリの方向性が定まらないことでお困りのようでした。


◆実施したことと分かったこと

そこで、グループインタビューで定性調査を行い、ワークショップでインサイト発見をしました。若年層がターゲットということでしたが、一旦それを取り払い、年齢を区切らず銀行全体に対してワークショップを行いました


ワークショップで使用したのが、「バリューグラフ」や「共感マップ」というものです。まず、バリューグラフとは、心の奥底でやりたいと思っていること=本質的なニーズを明らかにする手法です。設定したお題に対して、上位の目的を問い、そこで発見した上位目的の代替達成手段を考えることを繰り返します。



そこで出てきた要素から、ペルソナが置かれている状況や感情を理解するために「共感マップ」を作成します。共感マップは決めつけではなく、参加者の共感から導出します。どんな行動をして、どんな価値を大切にして、何を達成したいと考え、どうなりたいと思って、どんな特徴がある、どこの誰かまで、深く共感しながら作り込んでいきます。



こうしたワークショップを行うことで、「我々の言う若年層とは、はじめて自分で口座をつくる新社会人のことである。20歳~24歳前後で、給与振り込みが初体験の彼らは、実は、銀行とはなにかをよく理解していなかった」といった発見がありました。お金は貯めたいけれど、どうしていいのか分からないというインサイトから、アプリを利用することでそれをケアすることが必要なのではないかというコンセプトが出てきました。


◆陥りやすいアンチパターン

リサーチフェーズやコンセプトフェーズで陥りやすいのは、「今できることからこじつけた非実在ペルソナ」を作ってしまうことです。ペルソナを決めつけず、ユーザーリサーチをしっかり行いましょう。そして非実在ペルソナにしないためには、プロジェクトの最初にアンケートを取るのではなく、一度発散と収束を繰り返して軸を見つけた上でアンケートを取ることが必要だと思います。また、UXリサーチという形で、外部の知見を活用することをお勧めします。

【ケーススタディ2】モビリティサービス企業

2つ目のケーススタディは、「『いまできること』から演繹された機能ではなく、ユーザー心理から『本当に使ってもらえる』サービスを見つけた話」です。


◆要望と疑問

このお客様は事業者向けに安全運転システムを提供しているモビリティサービス企業です。ご要望としては、「事故を減らしたい。ドライバーの意識向上のために、スコア表示機能ができるアプリを開発したい」ということでした。そこで私たちが呈した疑問は、「点数を付けられて本当に事故は減るのか?事故回避のための急ブレーキがマイナス評価されるのは妥当なのか?」ということです。そこでむしろ、何が事故を減らすことにつながるのか、バイアスを取り払って深掘りすることを提案しました。


◆実施したことと分かったこと

このプロジェクトでは、バリュー・プロポジション・キャンバスというものを最終的に作りました。これは、顧客の視点を明らかにし、彼らの課題を解決できるようなプロダクトの開発に役立てるものです。顧客の体験の原点を知り、理想の状態に近づくために、ペルソナが現状感じている不満とか不安をペイントしてピンクの付箋に大量に書き出していきます。一方でこのペルソナが考えている理想の状態、どうなりたいのかを水色の付箋で書き出していきます。そしてその理想の状態になるために得たい結果や満足感、ゲインを緑色の付箋に書き出していきました。それを、この企業が提供できる価値であるバリューとぶつけることによって、ゲインを実現するアイデア、ペインを取り除くアイデアを大量に発散していきます。


こうしたワークを行うことで、何があれば事故につながらないのかを理解することができました。対象となる営業車のドライバーは運転が本業ではないため、そこに対して監視され点数を付けられるということは、自分にとって「敵」でしかありません。敵には協力できませんから、事故減には直結せず、むしろ逆効果です。そこで敵ではなく、味方になるにはどうすればいいか、対応策を考えていきました。


◆陥りやすいアンチパターン

仮説検証で陥りやすいアンチパターンは、「機能中心設計」に陥ってしまうことです。「人は危険な運転をするから、監視機能が必要だ」という機能中心型の演繹法で考えてしまうのは危険です。これを脱するためには「共感」を大切にしていただきたいと思います。「共感」を表す英単語として、「Sympathy」と「Empathy」があります。「Sympathy」は、当事者に対して観察者が第三者的な立場で向き合いますが、「Empathy」は観察者が当事者の立場で対象物に向き合います。デザイン思考で大切にしていただきたいのは「Empathy」です。


また、アリストテレスが提唱した論理技法として「帰納法(induction)」「演繹法(deduction)」は有名ですが、実はもう一つの方法「発想法(abduction)」というモノがあります。これは結論を導くというよりは、観察された事象の理由を説明するための仮の理論を考えることです。この「発想法」で考えることにより、「危険な運転をするのは急いでいるからではないか?急いでも安全に運転ができるようにするには、どうすればいいか」というユーザーの認知からのアプローチで、サービスを考えていく必要があると思います。

【ケーススタディ3】スーパーマーケットチェーン

最後に、スーパーマーケットチェーン様の「本当にほしかったのは…」のケースについてお話しします。


◆要望と疑問

ここでは、「競合にお客様を取られたくないので、会員証アプリでクーポンを配信してポイント付与する機能をつけたい。あとは、●●Payを導入したい」というご要望を頂きました。しかし、ただでさえ限られた利益率を競合と削り合うのかという疑問がありました。そして、お客様も販売員も忙しいレジで、さらにスマホを取り出してスキャンするという作業を増やすことになります。それは本当にメリットがあるのでしょうか。そこで、お客様とお店双方にメリットがある方法を考えていくことにしました。


◆要望と疑問

このケースでは、シャドーイングや、デザイン・プロトタイプ、サービス・ブループリントを導入しました。


シャドーイングとは、調査者の存在を意識させないように、体験や行動をその場で観察する方法です。また、観察して得られた課題解決方法を、実店舗のレジで試すことは難しいため、プロトタイプを作ってロールプレイングして、解決策の有効性を確認しました。


これによって発見したのは、このようなことです。お客様も販売員もスマホの説明員ではなく、決済をスムーズにすることを望んでいます。また、チェーンストア側も販売手数料を支払いたいわけではなく、できればすべて自社の利益としたいと思っています。そこで、自社電子マネーを事前チャージしてもらえば、スムーズなのではないかと考えました。


◆陥りやすいアンチパターン

要件定義で陥りやすいアンチパターンについてお話しします。出来上がりが見えないままで要件定義を行うことは危険です。機能を先に作ってしまい、その機能の説明にデザインを使うようなことには、ならないようにしましょう。


ウォーターフォールの弱点は、テストまで動くものに触れられないということです。料理に例えて言うと、盛り付けたのに「これ食べられない」ということが起こりがちです。この弱点を回避するには、要件定義の段階で体験を先に作り、全員で共有することが大切です。要件定義のプロセスに、行動開発やプロトタイプなど、人間中心設計やデザイン思考のプロセスを盛り込み、モックアップを作ってしまうことをお勧めします。



なぜかというと、プロトタイピングが非常に重要だと考えているからです。どれだけ早く成功できるかは、以下に高速に、大量に失敗できるかにかかっています。この利点は、大きく3つあります。1つは、やり直しのリスクが減ること。2つ目は低コストでたくさんの試行ができること。そして最後にリリース後の教育コストが減ることです。

総まとめ

最後に、総まとめです。まず、サービスデザインが重要になってきているという世の中の変化があります。収益モデルの変化は、顧客にとっての意味の変化をもたらします。それは、「役に立つ」という世界から、「意味がある」という世界に変わってきているということです。


そういった世界に向けて製品をつくる時に陥りやすいアンチパターンは、この3つです。


「今できることからこじつけた非実在ペルソナ」
「機能中心設計」
「できあがりが見えないままの要件定義」


どれだけ早く成功できるかは、いかに高速に、大量に失敗できるかにかかっている。だからこそ、プロトタイピングが重要です。最も大切なのは、要件定義のプロセスに人間中心設計やデザイン思考のプロセスを盛り込み、体験を先につくり、全員で共有することです。


質疑応答

Q. デザイン思考の有効性を社内で理解してもらうにはどうすればいいでしょうか?

経緯を知らない人を説得するのは難しいと思います。やはり、共感して理解していただくことが必要ですから、説得する対象の方と一緒に進めることが最も効果的でしょう。従来、プロダクトづくりや改善というプロセスでは定量データが重視されていましたが、「意味づくり」という世界の観点では、定性情報として共感をしてもらうことが重要です。これに関しては、2018年に経済産業省が「デザイン経営宣言」というものを発表しています。その中に、サービスデザインを行った企業の事例も報告されています。


Q. ワークショップで良いアイデアが出ないことがあります。何かポイントはありますか?

まず、メンバーの関与具合が大切です。積極的に関与している場合と、懐疑的な人がいて一方引いている場合では、アイデアの数が明らかに違います。メンバーをどう乗せるのかというところでは、メンバー選定もさることながら、ファシリテーションのテクニックも重要です。また、ピラミッド型の組織では声の大きな人がいて、なかなかフラットに意見を出せないということがあるかもしれません。その辺りの組織設計も重要になるでしょう。


Q. ワークショップでのアイデアが、多数決によって斬新さが失われることがあります。それをどう回避すればいいでしょう?

理想は、合議制にしないことです。評価の軸がないから、多数決という方法を取るのだと思います。そこで、評価ポイントを先に考えることをお勧めします。私のこれまでの経験でいうと、企業の企画部門の方々は、元々思考が柔軟な方が多く、斬新なアイデアが出ないということはあまりありませんでした。むしろ、たくさん出たアイデアを、プロダクトに落とし込むプロセスで苦労していらっしゃることが多かった印象です。まず数を出して、尖ったアイデア同士の中点を取ることで、実現性を担保することもできると思います。


登壇者プロフィール

曽根 誠
株式会社ゆめみ 執行役員 サービスデザイナー

インターネットビジネスの黎明期から様々な業界のウェブシステム・メディアなどのプロデュースを行う。toC領域でのスタートアップのプロダクト責任者を経て、toB領域において数多くサービスデザインを手掛ける。業務システムや新規事業に関してのサービスデザインからBPRまで支援を行う。2019年ゆめみにジョイン。サービスデザインチームの中心となり、toB/toC/toEの知見を活かして、事業会社のDXを支援している。HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト。PMI®認定Project Management Professional。