有識者セミナーレポート
元 富士通の責任者に学ぶ
600件を審査してきて見えた
新規事業創出を生み出す仕組みのリアル
大企業における新規事業創出は、なぜこれほどまでに困難なのでしょうか。本レポートでは、富士通で 12万人が参加する公募型新規事業プログラムを立ち上げ、600件以上の案件を審査してきた 斉藤 一実 氏
(株式会社EntreBiz CEO)が、その「仕組みのリアル」を語り尽くします。
「アイデアは出るが事業化に至らない」「優秀な人材をアサインできない」「撤退基準が曖昧でサンクコストが積み上がる」といった、多くの企業が直面する共通の悩みに立ち向かうための処方箋とは何か。斉藤氏が10年の実践を通じて得た、文化・人材・事業を三位一体で育てるための制度設計、周囲を巻き込む社内政治の要諦、そして事業化を加速させるカーブアウトの実践知まで、現場の生々しい反省と成功事例を交えてお届けします。
※本レポートは、2026年2月10日に開催されたセミナーをレポート化したものであり、当該時点での情報に基づき作成されております
登壇者プロフィール
斉藤一実 ⽒
株式会社EntreBiz CEO
富士通研究所に入社後、研究所発技術の事業化を推進し、国際標準規格策定参画、技術開発、商品化、拡販を担い世界 30か国以上への事業展開を経験。商品企画室長として BigData、AI 等の新規製品立上げの後、社内新規事業制度を設立し責任者を務める。600案件余りを審査・育成し、社内事業化3件、VC から資金調達してスタートアップ1社をカーブアウト。2024年退職して独立し、大手企業の新規事業やスタートアップ、自治体イノベーション施策などでのメンタリングやプログラム開発を支援。新規事業部門向け大規模イベント「新規事業大会議」の企画にも参画。
登壇者紹介と富士通での歩み
元責任者が経験した600件の審査
皆様こんにちは。株式会社EntreBiz の斉藤と申します。本日はよろしくお願いいたします。私はもともと、富士通研究所で技術の研究に従事していました。そこから事業部門に移り、研究所で開発した技術をいかに世の中に製品として出していくか、その事業化を推進してきました。
私が最初に手がけた大きな仕事は、財務報告の DX に関する国際標準規格(XBRL)の策定への参画です。国内外でのロビー活動から技術開発、商品化、拡販までを担当し、最終的には世界30か国以上に展開することができました。
その後、商品企画室長として AI などの新規製品の立ち上げを経て、2015年から新規事業創出制度を設立し、約10年にわたって制度の運用に携わってきました。この10年の間には、プログラムが2回ほど頓挫してしまうといった大きな失敗もありましたが、最終的には全社12万人が参加できる公募型の新規事業プログラムを立ち上げ、責任者を務めました。
世の中には1万件もの案件を見ている方もいらっしゃるため、私の600件余りという数字はそれほど多くないかもしれませんが、実際に審査や育成の現場で泥臭く苦労してきた経験の中から、皆様のお役に立てる「リアルな話」ができればと思っています。
富士通イノベーションサーキット(FIC)の概要
私が富士通で最後に形にしたプログラムが、「Fujitsu Innovation Circuit(FIC)」です。このプログラムを立ち上げる際、その「狙い」として掲げた志は「挑戦が当たり前の富士通への進化」でした。
富士通は歴史的に、お客様に求められたものをいかに愚直に、正確に作るかというシステムインテグレーターとしての文化が非常に強い会社でした。しかし、今の時代はそれだけでは不十分です。会社全体に「挑戦」というマインドを根付かせなければならないという社長の強い危機意識もあり、この「狙い」を据えました。
FIC は大きく3つのステージで構成されています。まず「Academy」という学びの場、次に「Challenge」という実践の場、そして最後に「Growth」という事業成長を支援する場です。この仕組み自体は、世の中の多くの企業が採用しているステージゲート方式と大きな差はありません。重要なのは、それぞれのステージにどのような意味を持たせ、何を KPI として追っていたのかという点です。
プログラムの目的:文化・人材・事業の育成
FIC の最大の狙いは、VUCA と呼ばれる不確実な時代において、アントレプレナーシップによって「社内文化」「人材」「事業」の3つを同時に育てることにありました。
ここで非常に重要なのは、これら3つの目的が「相互依存」しているという点です。文化がなければ挑戦しようとする人材は生まれません。人材が育たなければ、当然事業は生まれません。そして、成功事例という「事業」が生まれなければ、文化として定着することもありません。
私が10年間試行錯誤してきた変遷を振り返ると、当初は「事業創出」に偏っていました。とにかく事業を生み出すことが重要だと考えていましたが、これはうまくいきませんでした。次に、まずは認知を広めようと「文化醸成」と「人材育成」に重きを置きましたが、これも良いアイデアがなかなか生まれないという壁に直面しました。
最終的にたどり着いたのは、これら3つのバランスを追求する形です。文化醸成のために世界最高峰のアントレプレナーシップ教育を提供し、実践人材を300人規模で育成し、その結果として事業を生み出していく。この「耕して、種をまいて、実を収穫する」という一連の流れを仕組みとして回すことが、結果的に最も効率的なアプローチであると感じています。
・・・(続く)
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