有識者セミナーレポート
リコー 森久氏が語る
新規事業の「生存確率」を上げる思考法
〜大企業発イノベーションと社内政治の突破論〜
大企業における新規事業開発は、なぜこれほどまでに困難なのでしょうか。「面白いアイデアなのに進まない」「決裁者の承認が下りない」「スモールスタートと言いながら過剰な完成度を求められる」といった課題は、多くの新規事業担当者が直面する共通の壁です。
本レポートでは、株式会社リコーにて数々の新規事業立ち上げに携わり、現在は社内外統合型アクセラレータープログラム「TRIBUS」の運営を担う 森久 泰二郎 氏が登壇しました。日本企業特有の思考構造の変遷をひも解きながら、新規事業を社内で生き残らせるための「生存戦略」と、組織の重力に適応するための具体的な「サバイバル術」について、実体験に基づく実践的な論理を展開します。
※本レポートは、2026年4月24日に開催されたセミナーをレポート化したものであり、当該時点での情報に基づき作成されております
登壇者プロフィール
森久 泰二郎 ⽒
株式会社リコー
未来デザインセンターTRIBUS推進室
事業創造プロデューサー
※ご所属・役職はセミナー登壇当時のものです
宇宙科学研究所にて X線人工衛星「すざく」の開発の後、株式会社リコー入社。複写機 制御システム開発、民生用デジタルカメラ 開発を経て、産業機器に関する新規事業立ち上げに従事。現在は社内外統合型アクセラレータープログラム TRIBUS の運営及び海老名にある TRIBUS スタジオの運営を行いながら、大学でアントレプレナーシップ教育講座の講師や各種社外講演を行う。
登壇者の自己紹介とリコーの歩み
自己紹介と開発経歴
改めまして、こんにちは。株式会社リコーの森久です。本日はよろしくお願いいたします。
本日は「新規事業の生存確率を上げる思考法」という、なかなかヘビーなタイトルでお話しさせていただきます。
こうすれば絶対に確率が上がるという特効薬をお配りするというよりは、そうした困難に直面したときに、どう考え、どう現象を捉えればよいのかというヒントを皆さんに共有できればと考えております。
まず簡単に私の自己紹介をさせていただきます。私はリコーに入社後、もともとはエンジニアとしてさまざまな製品の開発や事業開発に関わってきました。気がつけば、さまざまな領域に足を踏み入れていたというのが実態です。
キャリアの初期は、複写機(コピー機)の制御システム開発やデジタルカメラの開発、それに付随する光学技術やセンシング技術、ソフトウェア開発を幅広く担当していました。その後、リコーとしても、これまで培ってきた光学、センシング、ソフトウェアといったコア技術を生かして、新たな事業を創出していかなければならないフェーズを迎えます。そこで私は新規事業を立ち上げる側に回り、主に工場の自動化に貢献する産業向けセンシング製品群や、フォークリフトをはじめとする産業車両の安全を支援するセンシング事業などの立ち上げに従事してきました。
現在は、リコーの中で新規事業を生み出すための「場」をつくる役割として、社内外統合型アクセラレータープログラム「TRIBUS(トライバス)」の運営に携わっています。新規事業に関わるようになってから、やることや経験の幅が本当に爆発的に広がったと改めて実感しています。
リコーの創業と事業転換
ここで、私の所属するリコーという会社について簡単にご紹介させてください。リコーは1936年に創業し、今年で90年を迎えます。創業者の 市村 清 が、理化学研究所の持っていた感光紙技術をもとに立ち上げた会社です。
1977年には、私たちは「オフィスオートメーション(OA)」という概念を世の中に提唱しました。この言葉はよく耳にされたことがあるかと思いますが、「機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な仕事に取り組むべきだ」という思想が根底にあります。この概念のもと、さまざまな複写機やプリンター等をはじめとする様々な事務機器を世の中に生み出し、グローバル展開を果たしてきました。
時代を経て世の中の状況が変わる中、私たちは2020年に「デジタルサービスの会社への変革」を大きく宣言しました。これまでのコピー機を主軸とした製造業・ハードウェア中心の事業から、デジタルを活用したソリューションによって働く皆さまをご支援する企業へと、大きな事業転換を進めています。これは1977年に掲げた OA の精神と本質的には同じです。デジタルソリューションによって、働く人々が人にしかできない創造力を発揮できるようにワークプレイスを変えていくことが、私たちの新たな目指す姿です。
事業領域がデジタルサービスへと広がったことで、お客様の幅も一気に広がりました。従来は総務部やオフィス内が中心でしたが、現在はオフィスを飛び出し、製造現場、建設現場、介護・福祉など、働くすべての人がいる領域が私たちの事業ドメインになっています。そうなると、当然ながら自社だけで何かを成し遂げることは難しくなります。そのため、Open Innovation という形でさまざまなスタートアップや外部企業と協業・共創しながら、新しい価値を生み出しているのが現在のリコーです。
ちなみに、創業者の 市村 清 は、事務機器以外にも数多くの事業を立ち上げた非常にアイデア豊かな人物でした。彼の残した言葉に「儲けるより儲かる」というものがあります。これは、目先の利益を「儲けよう」とするのではなく、世の中のためになるものを事業として正しく生み出せば、結果として自然に「儲かっていく」、すなわち利益が生まれ続けるという精神です。これからご紹介する TRIBUS という仕組みも、まさにこの精神にのっとり、世の中に対して本当に意味のある価値を社会実装しようという考え方で運営しています。
社内外統合型プログラム「TRIBUS」
我々が2019年からスタートした「TRIBUS(トライバス)」についてご紹介します。これは、社内の人材が応募できるビジネスコンテスト形式の「社内新規事業プログラム」と、社外のスタートアップ企業と共創する「スタートアップ共創プログラム」を一つに融合させた、日本でも非常に珍しい統合型アクセラレータープログラムです。
社内プログラムでは、社員から広くビジネスプランを募集し、トレーニングプログラムを経て、最終的に「Investors Day(インベスターズデー)」と呼ばれる場で審査を行います。そこで選ばれたテーマが事業化へと進んでいきます。スタートアップ共創プログラムにおいても、毎年多くのスタートアップからご応募いただき、リコーの事業部門とともに新たな共創に取り組んでいます。デモデイ(成果発表会)を経た後も、実際の事業部門と協業しながら、新しいサービスや技術の開発を進めています。
このプログラムを運営する上で、我々が最も大切にしているポイントがあります。それは、こうした新規事業プログラムにありがちな「単発のイベント」で終わらせないために、「やらないこと(NOT DO)」をあらかじめ定義していることです。
・・・(続く)
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ご利用実績(一部)東証プライム上場企業 4社に1社が導入経験あり※1









