有識者セミナーレポート

NEC 福田氏に学ぶ
外部技術を事業に活かす産学連携の実践法
〜事業化を見据えたアセット整理と、
外部シーズを自社へ接続する『翻訳』の視点〜

産学連携を単なる共同研究で終わらせず、自社の新規事業創出に確実に結びつけるためには何が必要なのでしょうか。本レポートでは、多くの企業が直面する「産学連携が事業化の手前(死の谷)で止まってしまう根本原因」を紐解きます。NEC の研究&事業開発戦略統括部で産学連携チームを率いる福田 武司 氏が、自社のアセットを整理して「自社軸」を確立するアプローチと、大学の先進的な技術をビジネスの言葉へ置き換える「技術翻訳」の実践的な視点について、自身の豊富なキャリアと NEC の先進的な取り組みを交えながら詳しく解説します。

登壇者プロフィール
福田 武司 ⽒
日本電気株式会社
研究&事業開発戦略統括部
産学連携チーム シニアマネージャー
大学院博士前期課程修了後、株式会社フジクラに入社。光通信用デバイスの開発および新規事業探索に従事。続いて国立大学法人埼玉大学 工学部機能材料工学科にて、塗布装置・塗布型電子デバイスの基礎研究から事業化までを推進するとともに、「新世代塗布型電子デバイス技術研究組合」を設立。運営委員長、装置部会長などを歴任し、産学連携による技術実装を牽引。その後、積水化学工業株式会社にてペロブスカイト太陽電池および新規事業開発を担当し、オープンイノベーション/新規事業開発チームをリード。現在は NEC にて産学連携チームを率い、アカデミアと企業の接点を活用した社会価値創造に取り組んでいる。

産学連携の現状

私はこれまで約25年にわたり、企業と大学という異なる視点から、産学連携の探索から事業化までを一気通貫で経験してきました。フジクラでは共同研究員として文科省プロジェクトに参画し、埼玉大学では教員・技術研究組合の運営者として企業の材料や装置の事業化を推進しました。さらに、積水化学工業では オープンイノベーション を率いて新規事業を企画し、現在は NEC 全体の産学連携を統括しています。このキャリアを通じて、産学連携がいかに多くの課題に直面しているかを身をもって感じてきました。

多くの企業で産学連携が進まない最大の課題は、大学との共同研究契約を結び、技術検証を行うものの、その手前である「事業化」のフェーズで取り組みが完全に止まってしまうことにあります。これは産学連携担当者だけの問題ではなく、企業全体における オープンイノベーション の進め方の問題でもあります。

私は、産学連携を決して「特殊なこと」として捉えるべきではないと考えています。自社の事業を作るために必要なリソースを自社でまかなうのか、あるいは外部から獲得するのか、その経営判断の選択肢の1つに過ぎません。その外部リソースの調達先が、スタートアップでも他社でもなく「大学」であるというだけなのです。大学を有力な オープンイノベーション の選択肢の1つとして当たり前に活用し、事業を生み出す世界を目指したい――これが私の活動の原動力です。


では、なぜ多くの産学連携プロジェクトが、事業化の手前にある「死の谷」を越えられずに止まってしまうのでしょうか。私は、この死の谷を形作る要因は次の3つに集約されると考えています。

第一に、「戦略との非接続」です。
多くの企業では、自分たちが未来に向けて何をやりたいのか、どのような事業領域に不足しているリソースがあるのかが整理されていません。その状態で、「最先端の技術がある大学に行けば、何か面白い情報があるかもしれない」「著名な先生とつながれば何かできるかもしれない」と、目的が曖昧なまま探索を始めてしまうのです。これでは、どんなに優れたシーズ(技術の種)を大学で見つけても、自社の本質的な成長戦略につながるはずがありません。

第二に、「言葉の壁」です。
企業の担当者も大学の先生も、お互いに非常に優秀です。そのため、それらしい専門用語を使って高度な会話は成立しているように見えます。しかし、育ってきたバックグラウンドも、前提とする評価ロジックも、目指す目的も全く異なります。そのため、表面上は話が通じているようで、本質的な部分ではお互いのニーズが全く噛み合っていないという状況が頻繁に起こります。この言葉のギャップを埋める存在がいないことが、意思決定を妨げる要因になっています。

第三に、「目的の喪失」です。
本来の目的は、「特定の事業を創出するために、不足している技術を大学から獲得する」ことだったはずです。しかし、いつの間にか「大学と毎年共同研究を続けること」や「PoC(概念実証)の実験を回すこと」自体が目的化してしまいます。明確な Go/No-Go 基準を持たないまま毎年惰性で契約を更新し、実験データだけが蓄積されて事業には何もつながらない、という PoC 止まりのループに陥ってしまうのです。


産学連携がうまくいかないとき、企業側から「大学の先生がビジネスに非協力的だ」「企業のための研究をしてくれない」といった不満が聞かれることがよくあります。しかし、本質的な問題は大学側にはありません。問題の本質は、企業側の「接続設計」の欠陥にあると私は確信しています。

大学の技術は、学問的に非常に先駆的かつ最先端のものです。それゆえに、現段階では一見「何に使えるのかよくわからない」ものであっても、それは大学というアカデミアの価値として全く正しい姿です。

問題は、企業側がその優れた学術的成果を、自社のどの戦略に当てはめ、どのように事業や意思決定の枠組みに接続していくかという「設計図」を描けていない点にあります。企業側がこの接続を主体的にリードしなければ、どれほど大学が協力的な姿勢を示してくれても、プロジェクトが前に進むことはありません。結果として、お互いにリソースを浪費し、不幸な結果に終わってしまいます。産学連携を成功させるためには、企業側がこの接続設計の主導権を握らなければなりません。

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