有識者セミナーレポート

大手食品製造業3社での挑戦と失敗に学ぶ
新規事業「0→1」突破論
〜自社リソースを活かし、事業化の壁を越える社内合意とスモールスタートの進め方〜

不確実性が高まる現代において、企業が生き残るためには、新規事業への挑戦が不可欠です。しかし、既存事業に最適化された大企業で新たな価値を生み出すには、数多くの壁が立ちはだかります。
本レポートでは、味の素、亀田製菓、フジッコなどで新規事業の立ち上げを経験してきた 丸山 健太郎 氏が、成功と失敗の実体験を交えながら、事業化の壁を越えるための「個人」「会社」「仲間」の3つの要点を解説します。大企業ならではのリソースを活かしたイントレプレナー(社内起業家)としての戦い方や、社内合意の形成、スモールスタートの進め方について、実践的な知見をお届けします。

登壇者プロフィール
丸山 健太郎 ⽒

1991年に北海道大学工学部大学院を修了後、味の素に入社し加工食品の研究・開発からキャリアをスタート。その後サプリメントと機能性素材の新規事業立ち上げに参画し、商品開発やマーケティングを担当した後に米国赴任。また業務の傍ら、スイス連邦工科大学への海外留学や、広島大学の社会人博士課程で農学博士号を取得。味の素で 20年以上に渡り様々な経験を積んだ後、2013年に亀田製菓へ転職し研究所長を務める。2018年にフジッコへ移り、上席執行役員・開発本部長、イノベーションセンター長として、商品開発・研究部門や素材事業部門を管掌するのと並行し、新規事業「ダイズライス」を立ち上げる。2026年4月より、マグミット製薬にて、健康領域での新規事業の立ち上げのミッションを担う。

新規事業の必要性


新規事業の成功確率は約10%から30%弱の間だと言われており、場合によっては10回に1回しか成功しない厳しい世界です。それにもかかわらず、なぜ企業は新規事業に取り組む必要があるのでしょうか。高度成長期であれば、人口も需要も右肩上がりで、作れば売れる時代でした。そのため、新規事業をやらなくても既存の商品ラインナップを増やすだけで売上が伸びていきました。しかし今は VUCA と呼ばれる、将来の予測が困難で不確実な時代です。経済の低成長や予期せぬ事態が起こる中で、トライアンドエラーを繰り返して新しい事業を伸ばさないと、成長し続けることが難しいのです。環境が変化すれば、市場のお客様や競争相手も変化します。企業も変化に適応できなければ、生き残ることはできません。


プロダクトライフサイクルやポートフォリオマネジメントの観点から見ても、どのような製品や事業であっても、いつかは必ず衰退の時期を迎えます。企業が中長期的に成長を維持するためには、定期的に新規事業を立ち上げて収益化し、次の花形や金のなる木に育てていくサイクルを回す必要があります。

新規事業を考える上でよく用いられるのが、有名な「アンゾフマトリックス」です。既存市場に新製品を投入する「新製品開発」は、営業など既存のリソースを活用できるため、既存事業主導の方が成功確率が高いと言われています。一方で、新しい市場を開拓したり、新製品で新市場を狙う「多角化(飛び地)」の場合は、新たな人材や予算の確保が必要になるため、コーポレート部門主導の方が成功確率が高いとされています。いずれにせよ、日本を代表する企業であるトヨタ自動車でさえ「今後も継続し成長し続けていくためには、新規事業の開発が重要な課題の一つ」と掲げているように、会社として新規事業に挑戦し続けることが不可欠です。

また、経営学には「両利きの経営」という有名な理論があります。これは、既存事業を深掘りして利益を稼ぐ「深化」と、新しい事業を探索する「探索」の両方を同時に進め、バランスを取ることが重要だという考え方です。短期的な売上や利益にとらわれると「サクセストラップ」に陥り、既存事業にばかりリソースを割いてイノベーションが停滞してしまうため、経営層はこのバランスを常に意識する必要があります。


私が好きな言葉に、京都の老舗料亭「菊乃井」三代目の 村田 吉弘 氏がおっしゃった「伝統は革新の連続」というものがあります。「伝承」とは同じことを続けていくことですが、「伝統」とは革新を連続してつなげていき、後ろを振り返った時に初めて伝統になっているものだというお話です。時代が変われば、お客様の求めるものも変わります。企業や組織が長期的に存続するためには、時代に即した革新的な新規事業を連続的に世に問うていかなければ、生き残れないのだと確信しています。

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