有識者セミナーレポート

富士フイルムが実践した
技術シーズを売れる価値へ変える方法とは

かつて写真フィルムで世界を席巻した富士フイルムは、デジタル化の波によって主力事業を失うという危機に直面しました。しかし、同社は多角的な事業展開によって成長を続けて、この危機を乗り越え、「第二の創業」を成し遂げています。本レポートでは、この新規事業開発を牽引してきたキーパーソン、元富士フイルムの中村善貞氏が登壇したセミナーの模様をレポート。事業の根幹となる技術資産をいかに「売れる価値」へと転換させたのか、その具体的な手法と思考プロセスについて解説します。

登壇者プロフィール

中村 善貞
一般社団法人イノベーションアーキテクト
代表理事

京都大学大学院工学研究科で有機化学を専攻。富士フイルム株式会社にて写真感光材料の要素技術や製品開発、新規事業開発に携わる。その後、研究担当部長および商品部長として同社化粧品事業の立ち上げに貢献し、R&D統括本部技術戦略部統括マネジャー、先端コア技術研究所副所長、イノベーションアーキテクト(特命)として社内外の新規事業創出に携わってきた。現在は、一般社団法人イノベーションアーキテクト代表理事を務める。

富士フイルムの挑戦:第二の創業

富士フイルムは、かつて写真フィルムを主力事業として成長を続けてきた会社でした。しかし、写真フィルムの需要は2000年をピークに急激に縮小し、わずか数年で主力事業を失うという危機に直面しました。この状況は、事業全体を支える柱が急速になくなってしまったことを意味します。

この変化を受けて、富士フイルムは生き残りをかけて大胆な変革に着手します。その結果が、2000年時点と第二の創業10年後の2016年時点での事業構成比を比較した円グラフに明確に表れています。2000年時点では、(写真フィルムを中心とする)イメージング関連事業が連結売上高の約半分を占めていましたが、2016年には1%以下にまで激減しています。この落ち込みをカバーし、ほぼ同規模の売上高を維持できたのは、他の事業を大きく伸ばすことに成功したためです。

この急激な事業構造の変化は、同社が「第二の創業」と位置付けた変革によるものです。その変革は、大きく分けて「三つの矢」で構成されていました。

このセミナーでは、これらの中でも特に「新事業の創出」、すなわち新たな成⻑戦略に焦点を当てて解説します。


新しい事業を創出する上で重要になるのが、自社の技術資産を正しく理解することです。富士フイルムは写真フィルム事業を通じて、どのような技術を培ってきたのでしょうか。

写真フィルムは、一見すると単純なものに思えますが、実は非常に多機能で超ハイテクな素材でした。
・光を捉える「センシング」機能
・画像情報を記録する「メモリー」機能
・色で再現する「ディスプレイ」機能

これら3つの機能を、ペラペラのフィルム1枚で実現していたのです。そして、これらの機能を化学的に実現するために、様々な高度な技術が使われていました。例えば、光に反応するハロゲン化銀という無機粒子を用いたセンシング、それによって作られる潜像を基に色素を形成する現像処理などです。さらに、人間の「記憶色」を再現するために、見たままの色ではなく、記憶の中で美化された色を表現する工夫もされていました。

こうした写真フィルムの技術基盤は、化学を中心とした「マテリアルサイエンス」、光や色、画像に関する「イメージングサイエンス」、そして人間の感性を評価する「感性評価」の三つの領域に集約されます。


富士フイルムの新規事業創出は、アンゾフの成長戦略マトリックスを用いて説明されることが一般的です。このマトリックスでは、縦軸に「技術」、横軸に「市場」をとり、「既存技術×既存市場」の「本業」から、「新規技術×既存市場」「既存技術×新規市場」「新規技術×新規市場」へと事業を拡大していく方向が示されます。

ここで自社アセット(技術)を活かしていくときに重要になるのが、「技術起点(プッシュ型)」と「顧客起点(プル型)」という二つの考え方です。

  • 技術起点(プッシュ型):自社の持つ技術を活かせる新しい市場を探すアプローチ
  • 顧客起点(プル型):新しい市場や顧客の課題を見つけ、それを自社の技術で解決するアプローチ

一見似ていますが、この二つは全く異なる思考プロセスを必要とします。そして、この二つのアプローチを駆使して、富士フイルムは「新規事業の創出」を成し遂げました。


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