有識者セミナーレポート
東京海上の新規事業開発経験から得た
大企業ならではの「障壁」を構造化し、
事業を動かす考え方
自動車産業の変革期やDXの加速など、現代のビジネス環境は急激な変化の中にあります。こうした中、多くの大企業が新規事業開発に活路を求めていますが、実際には「社内政治」「既存事業とのコンフリクト」「重厚なガバナンス」といった大企業特有の厚い壁に阻まれ、思うように進まないケースが少なくありません。
本レポートでは、東京海上グループにおいて新規事業子会社の設立や複数のB2B SaaS開発をリードしてきた堤貴寛氏が登壇しました。実務上の生々しい問題解決事例をベースに、複雑に絡み合う大企業の障壁を「変数」として捉え直し、いかにして突破口を見出すべきかについて解説します。併せて、その実践的な思考法と具体的な戦略についてもご紹介します。
登壇者プロフィール
堤 貴寛 ⽒
Sharing Innovations社
執行役員
LINE (現 LINEヤフー)、ソフトバンクで仮想移動体通信や音声 AI 関連の事業企画、事業開発に従事したのち、東京海上にて新規事業子会社を設立し、複数の B2B SaaS 開発をリードしながら取締役や IT 開発組織長を歴任。現在は、Sharing Innovations社 執行役員として新規ソリューション開発、開発組織マネジメントに従事。
大企業における事業開発の現状
登壇者紹介と本セッションの背景
本日は、私が前職の東京海上において、巨大な既存事業を土台としながら取り組んできた事業開発の経験に基づき、実務上での事業の動かし方についてお話しします。
今回取り扱うケースは、東京海上内で実際に事業化したBtoB SaaS事業を主な題材としています。汎用的なフレームワークやテンプレートの解説ではなく、私自身が実務で直面した具体的な「問題」をどのように解決していったのかという、泥臭い実践知をベースに進めていきます。
停滞の要因となる「変数の多さ」
大企業で事業開発を進めようとすると、多くの方が「なかなか進まない」「やりにくい」という感覚を持たれるのではないでしょうか。この構造的な問題の正体は、大企業特有の「変数の多さ」にあると私は考えています。
スタートアップであればシンプルな意思決定で済むことも、大企業では職種やテーマを問わず、多種多様な問題を同時に解いていかなければなりません。いわゆる「社内政治」「組織の壁」「ハレーション」といった状態は、捉え方を変えれば、事業開発において考慮すべきパラメーター、つまり「変数」が非常に多い状態と言い換えることができます。
具体的には、以下のような観点が大きなハードルとなります。
- 構造的な埋没:変数が日常の業務に埋もれていたり、隠れていたりすること自体に気づくのが難しい点です。
- 課題設定の困難:見つかった変数に対して、どのように道筋をつけて課題を設定するかが極めて難しい点です。
- 環境構築の必要性:課題を解決しやすい環境を整え、仲間をどのように組織化するかが成功の鍵となります。
こうした変数の存在に気づかず、あるいは突然現れる変数に対応できないことで、事業のスピード感やベクトルが本来の期待値から乖離してしまいます。
“変数化”と捉え直しの重要性
本セッションのタイトルにもある「変数化」という言葉には、私の強い思いが込められています。大企業で起きるさまざまな問題を、一つひとつの「変数」として捉え直してみます。そうすることで、問題の「前提」や「担い手」、あるいは取り組む「プロセス」を組み替えるといった、客観的で冷静な対処が可能になります。
単に「政治が面倒だ」と嘆くのではなく、それを解決すべき一つの「変数」として構造的に把握し、言語化すること。それが新しい発見や気づきを得て、停滞した事業を動かすための第一歩となります。
「隠れた変数」を見極める考え方
LTVを例とした構造の可視化
具体的に「変数」とは何を指すのか、LTV(顧客生涯価値)を最大化するモデルを例に考えてみましょう。
一般的にLTVを構成する変数として、リード数、商談化率、成約率、獲得コスト、継続率などは、誰もが計画段階で洗い出す項目です。しかし、大企業で事業を立ち上げる場合、ここには「隠れた変数」が潜んでいます。
例えば、既存事業のリソース(営業や開発など)を活用したいと考えたとき、そこには「既存から新規へのリソース配分」や「既存事業側での優先順位」という別のパラメーターが存在します。
- 既存事業側の論理:既存事業を動かすためには、新規事業がその組織内でどれだけの優先順位を得られるかが重要です。
- 期待値との乖離:この変数を見落としたまま計画を立てると、いざ実行フェーズで「商談化率が期待値と乖離する」といった事態を招きます。
頭では分かっていても、これらを独立した「変数」としてLTVの構造にまで落とし込めているケースは、意外と少ないのが実情です。
・・・(続く)
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