有識者セミナーレポート
三井化学 CTO 表氏に ”聞ける”
技術を事業に変える組織と視点とは
化学メーカーとして長い歴史を持つ三井化学株式会社は、現在、2030年に向けた長期経営計画
「VISION 2030」を掲げ、従来の素材提供型ビジネスから社会課題解決型ソリューションビジネスへの転換を推し進めています。本セミナーでは、日東電工でのCTO・CIO経験を経て、現在は三井化学のCTOとして変革をリードする表 利彦氏にご登壇いただきました。技術を事業へと変えるための「独自のニッチ戦略」、新事業を生み出し続ける「組織アーキテクチャ」、さらにグローバルなCVC活動や具体的な成功事例まで、語っていただきました。後半の質疑応答では、参加者から寄せられた多数の質問に対し、表氏の経験に基づくリアルな回答をいただきました。
登壇者プロフィール
表 利彦 ⽒
三井化学株式会社
常務執行役員 CTO 新事業開発センター
加工生産技術センター及びCTO 室担当
研究開発本部管掌
1983年、日東電気工業株式会社(現・日東電工)に入社。研究者としてキャリアをスタートし、研究開発部長、事業部長を経て、CTOとして技術戦略に深く携わる。その後、CIO、経営インフラ統括本部長などの要職を歴任し、2018年からは米国サンノゼにて新たなビジネスチャンスの探索・創出に従事。
2022年2月より三井化学株式会社に参画し、現在はCTOとして全社の技術戦略と新事業創出を牽引している。
経営戦略と新事業の位置付け
上位概念からの落とし込み
私は約45年の会社人生の中で、アカデミアでの研究から事業開発、そして会社経営まで、さまざまな経験をさせていただきました。その経験の中で痛感しているのは、経営戦略と技術開発が密接に連動していることの重要性です。経営を行う上で不可欠なのは、まず上位概念からの論理です。最上位に「経営ビジョン(将来実現したい普遍的な姿)」があり、その下に「経営理念(企業の存続意義・哲学)」があります。これらを受けて初めて、ビジョンに向かって突き進むための道しるべである「経営戦略」が策定されます。
戦略が決まって初めて、それを遂行するための具体的方法論である「経営戦術」が見えてきます。そして、その戦術を実行するために必要な武器、すなわち技術、資本力、ブランド力、ものづくり力といった「経営戦技」が定義されます。技術者が「どんな技術を開発すべきか」を考える際、この上位からの落とし込みがなければ、何を用意すべきか語ることはできません。経営のリーダーシップのもと、向かうべき方向性が全員に共有され、そこに対して現場から意見が上がり、フェアな議論を通じて具体化されていきます。このプロセスこそが「経営戦意(人材、組織、モチベーション)」を高める唯一の方法であると私は考えています。
社会課題視点への転換
三井化学では現在、長期経営計画「VISION 2030」を掲げています。これは2030年をターゲットとしたビジネスモデル転換の道しるべです。これまでの私たちは「素材提供型ビジネス」が中心でした。しかし、これからの時代は「社会課題視点のビジネス」への転換が不可欠です。単に素材を提供するだけでなく、顧客の困りごとを解決する「ソリューション型ビジネスモデル」、そして化学会社としての責務である「サーキュラーエコノミー(CE)型ビジネスモデル」へと進化させていく必要があります。当然、デジタル(DX)の活用も大前提となります。社内の生産性向上だけでなく、お客様へ新たな価値を提供するためのDXを全事業で展開していくことを目指しています。
2つの経営スタイルの分離
この戦略を具体化するために、私たちは最近、大きな経営判断を行いました。それは、事業ポートフォリオを「成長領域(ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICT)」と「ベーシック&グリーンマテリアルズ(基礎化学品)」の2つに分け、それぞれ異なる経営手法をとるというものです。
成長領域である3つの分野については、高成長・高収益のグローバルスペシャリティカンパニーを目指し、M&Aを含めた積極的な資源投下を行います。一方で、創業以来の事業である基礎化学品(ベーシック&グリーンマテリアルズ)は、日本の産業を支える強靭なインフラであり続けなければなりません。しかし、昨今の環境下では単独での存続は厳しくなりつつあります。そこで、この領域ではペトロケミカルからグリーンケミカルへの転換を進めます。これには膨大な投資と技術革新が必要となるため、一社単独ではなく、他社との連携や国の支援も仰ぎながら、日本の産業基盤を再構築していく方針です。このように、目指す方向性が異なれば、組織や研究開発の進め方も変わっていく必要があります。
独自の「ニッチ」戦略
生態学的ニッチの定義
成長領域において、私たちはどう戦っていくべきでしょうか。私が前職時代から重視しているのが「グローバルニッチトップ」という考え方です。ここで言う「ニッチ」とは、一般的にイメージされるような「隙間」や「小規模」という意味ではありません。私が考えるニッチとは、生物学的な意味での「生態的地位(Niche)」です。ある生態系(エコシステム)の中で、「この種がいなければ生態系全体が崩れてしまう」という不可欠なポジションのことを指します。ステークホルダーから「三井化学には必ずここにいてほしい」と言われるような安住の地を確保すること。これこそが真のニッチ戦略です。
技術価値と顧客価値の関係
技術開発において、技術の価値が上がれば顧客価値も上がり続ける「無限規格品」の世界があります。しかし、単一技術での競争はいずれ資本力や人員数に勝る巨大企業(例えば中国企業など)にキャッチアップされ、勝ち残ることが難しくなります。逆に、技術価値を上げても顧客価値が頭打ちになる「有限規格品」の世界では、価格競争やキャパシティ競争に陥ります。これらを避けるために、私たちは「技術の複合化」や「高度な加工技術」を組み合わせ、複雑性を高めることで他社が模倣できない領域を作る必要があります。
・・・(続く)
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