有識者セミナーレポート

コニカミノルタ新価値創出スタジオ担当者に学ぶ
「大企業×新規事業」アイデア創出のリアル
〜新しい価値を生み出し続ける、デザイン思考とビジョン組織への実装〜

新規事業を成功させるためには、今までにない新しい価値を創造する必要があります。
新しい価値の創造は、まず、新しいアイデアをいくつも考えることから始まりますが、このアイデア創出が、新規事業を始める多くの方々にとって最初の壁となります。社内だと想定内のアイデアばかりになってしまったり、自社の既存の事業や強みに縛られてしまったりと、アイデア創出で課題を抱える方は多いのではないでしょうか。

そこで今回はコニカミノルタ株式会社において、コニカミノルタデザイン思考の体系化と社内浸透や、新価値創出スタジオenvisioning studioを立ち上げ推進された神谷泰史氏をお招きし、新規事業開発におけるアイデア創出において有効的な「デザイン思考」の活用法についてお話いただいた模様をレポートします。

※ 本レポートは、2023年7月18日に開催されたセミナーをレポート化したものであり、
 内容及び登壇者の所属は当該時点での情報に基づき作成されております。

登壇者プロフィール

神谷 泰史

コニカミノルタ株式会社 デザインセンターデザイン戦略部
デザインイノベーショングループ グループリーダー

Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)修了。アート、デザイン、ビジネスの間をつなぐ方法論の研究と実践を行う。ヤマハ株式会社にて音楽の新しい楽しみ方に関する研究開発からの新規事業開発や、共創施設運営や新規事業提案制度の設計などイノベーションマネジメントに従事。デザインコンサルティングを経て、2019年よりコニカミノルタ株式会社において、コニカミノルタデザイン思考の体系化と社内浸透や、新価値事業創出スタジオenvisioning studioを立ち上げ推進する。

デザイン思考の紹介とその重要性
なぜ、デザイン思考が必要とされているのか?

ここ数年、世の中で「デザイン思考」というキーワードを⽿にするようになりました。なぜ、デザイン思考に取り組まなければならないのか。そこには無数の理由がありますが、今回は代表的な2つの理由を紹介します。

1つめがイノベーションの必要性です。「VUCAの時代」と⾔われている昨今、⼤企業であっても今までやってきた柱となる基盤事業が突然の環境変化によって安泰ではなくなることがあります。こういった変化に対して素早く対応できたり、新しい事業をあらかじめ⽤意したりしておくにはイノベーションに取り組むことが⼤事になってきます。

数年前にベストセラーになった『両利きの経営』という経営学の本があります。その中で、現在の経営は既存の価値の拡⼤‧効率化を求める“深化”と⾔われるものと、新しい価値を創出する“探索”の両⽅のバランスをとることが⼤事とされています。

実際、近年の傾向として国内企業を対象としたイノベーションに関する⼤規模調査※によると、⼤企業の7割は直近3年の間に何かしらのイノベーション活動に取り組んでいるそうです。実態として、多くの企業がイノベーションにコミットしているわけです。

※ 出典:科学技術‧学術政策研究所(NISTEP)による「全国イノベーション調査2020年調査統計報告」

2つめが、イノベーションの傾向として「技術中心」から「人間中心」にシフトしているということです。NEDOが発表した『オープンイノベーション⽩書 第三版』という白書の中で日本におけるイノベーションの傾向の変化が類型化されています。

かつて日本のメーカーが元気だった頃は、発明者が起点となってプロダクトアウトしていく、いわゆる「発明牽引型」が主流でした。

一方、21世紀型のイノベーションは顧客が起点となって価値を創造していく「顧客起点型」が主流と説明されています。現代のイノベーションにおいてはデザイン思考が有効であると説明されています。より複雑な問題を多様なチームで解決する必要がある現代においては、顧客を起点として考えることができ、なおかつフレームワーク化されているデザイン思考が有効であるという世論が出てきているのです。

デザイン思考を取り入れる必要性は理解いただけたかなと思います。そもそも、デザイン思考とは何か。名前は聞くけど、内容がよく分からないという人も多いと思います。

デザイン思考の詳しい説明に入る前に、世の中の情報を見てみましょう。これはデザイン思考で画像検索してみた結果です。この結果から分かるのは、共にプロセス図のようなものが登場しているということです。日本と英語では図のパターンが少し違います。

ChatGPTに聞いてみたら、完結で分かりやすい回答が出てきました。「ユーザー中心の視点で課題解決するアプローチ」というのが、入り口として理解するには十分な説明です。

株式会社コンセントが先日公開した「デザイン思考・デザイン経営レポート2023」に掲載されているデザイン思考の認知度調査の結果によれば、イノベーション関連職種の92.2%の人がデザイン思考を知っていると回答しています。デザイン思考を知っているし、理解しているのが76.3%、デザイン思考を知っているが分からないが15.9%となっています。

一方で、65.6%の人が⾃分にデザイン思考は関係あると思っているのですが、実際に活⽤できているのは24.4%しかいません。障壁となっているのは「デザイン思考」に関する誤解です。デザイン思考はデザイナーの仕事であって、非デザイナー職には使えないものと思っている人が多くいるのです。デザインはスケッチしたり、造形したり、配色したりというイメージがステレオタイプとしてあります。それらはデザインの一部ではありますが、全部を説明しているわけではありません。

ハーバート・サイモンさんはデザインについて「現在の状態をより好ましいものに変えるべく⾏為の道筋を考案するものは、誰でもデザイン活動をしている」と説明しています。よりよい状態にするための道筋を描くことがデザイン。設計や構想に近い概念です。こう考えると、私たちも日々デザインしていると言えるのではないでしょうか。

デザイン思考は近年、関心が高まっていて、2015年くらいから論文数が増えています。その内容は組織変革やイノベーションに関するもの。裏を返せば、それだけデザイン思考の実践がされているということでもあります。



デザイン思考の2つのポイント

では、デザイン思考は何をするのか。デザイン思考はデザインするためのプロセスです。

デザインプロセスとして有名なものに、イギリスのDesign Councilが2003年に公開した「ダブルダイヤモンド」というモデルがあります。

このモデルは2つのひし形から構成されています。探索、定義、展開、提供という形で左から右にプロセスが進んでいくことをあらわしています。

1つめのポイントは、このモデルでは1つめのダイヤモンドと2つめのダイヤモンドで意味が明確に異なっていることです。探索と定義のフェーズは「Designing the RIGHT THING」ということで、正しい課題を定義することを目的としています。展開と提供のフェーズでは「Designing the THINGS RIGHT」ということで、正しい解決策を提供することが目的です。

つまり、「正しい課題を定義し、課題を解決する正しいソリューションを提供すること」がデザイン思考のポイントの1つめになります。これを聞くと「当たり前のこと」と思われるかもしれないですが、実はこの当たり前のことができていないんです。

多くのメーカー企業は2つめの正しい解決策を提供することが得意ですが、実際にユーザーが求めているものを本当に実現できているか。実態としては、1つめのダイヤモンド部分を実施していないケースがほとんどだと思います。

一方で、1つめのダイヤモンドが出来ていて正しい課題を定義できていたとしても、課題を解決するソリューションが提供できていないこともある。会社の事情や事業要件などで、Howが先に決まってしまい、課題を解決するソリューションが提供できないことも多々あると思います。どちらかだけでなく、両方を実行していくことが大事なポイントになってきます。また前提として、人間中心で考えることが大事になります。正しさの根拠は「人」。顧客にとって正しいかどうかがポイントになります。

2つめのポイントは発散と収束を繰り返すことです。ある側面の情報だけから課題を設定するのではなく、複数の視点を持って探索をし、その中からインサイトを得て課題を絞り込んでいく。そういう発散と収束を経ないと、正しい課題には辿り着けません。

相手は人間であるので、同じインプットでも同じアウトプットをしない。また、顧客自身も課題を認識していないケースがほとんどなので、こういうプロセスを経ないと本質に辿り着けない。それらを踏まえて、デザイン思考とは「⼈間中⼼の眼差しを持って、正しい課題を定義し、その課題を解決する正しいソリューションを提供するための、発散と収束を繰り返す取り組み⽅」と定義してみました。

ポイントは「⼈間中⼼の眼差しを持って」というところです。「人間」は、顧客やユーザーに限った話ではなく、社員を対象として、デザイン思考で組織変革を行うこともできます。

・・・(続く)

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