有識者セミナーレポート
カーボンニュートラルで変わる世界経済の勢力図 ~米中テクノロジー覇権闘争と日本の生存戦略~
カーボンニュートラルに向けた潮流が、世界的に加速しています。カーボンニュートラルという大変革の最中において、米中を中心とした世界経済の勢力図はどのように変化するのでしょうか。あらゆる領域に及ぶ技術革新の全体像や相関性、日本が生き残るための戦略とは、どのようなものでしょうか。
そこで今回はストセラー「脱炭素で変わる世界経済 ゼロカーボノミクス」の著者であり、日本総合研究所 フェローの井熊均氏をお迎えし、脱炭素時代における米中覇権闘争の現状と展望、産業・領域を跨いだ技術革新の可能性、これらを踏まえた日本の戦略についてお話しいただいた様子をレポートします。
登壇者プロフィール
井熊 均氏
日本総合研究所 フェロー1958年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、三菱重工業入社。1990年日本総合研究所入社、同社の創業に関わる。2021年、同社専務執行役員を退任。現在、北陸の産学連携事業の総括エリアコーディネータ、Team Energy顧問、複数のベンチャービジネスの取締役、NECエグゼクティブコンサルタント、北陸先端科学技術大学院大学経営協議会委員、などを務める。
中国が発端となって加速した「カーボンニュートラル」の取り組み
今では、毎日のようにカーボンニュートラルに関することが報道されています。世界的にはカーボンニュートラルに 関する技術競争、政策競争が大きなトレンドです。
このカーボンニュートラルに関する動きを加速させたのは「中国」だと思います。2016年3月にパリ協定が合意されるなど、それまでも各国がカーボンニュートラルに関する取り組みをやっていました。ただ、カーボンをゼロにすることを各国がはっきりと名言し、国際競争が始まったのは2020年だと思います。
その発端となったのが、2020年9月22日の国連総会一般討論で習近平国家主席がビデオ演説で「CO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指す」と発言したことです。これまで、中国は排出量をゼロにする、いわゆる絶対量の約束はしてきませんでした。それが一転して、カーボンニュートラルを目指すとなり、世界が驚いたわけです。なぜ、驚いたのか。日本も含めて中国がコミットできる段階ではないだろう、と高を括っていたからです。
日本では中国の発表に対して「本当にできるのか?」と思われるかもしれませんが、中国が政策的に発言したものは成し遂げなければいけない。その責任に関しては、日本やアメリカ、ヨーロッパよりも大きいものがあります。
そんな中国の発言に対して、EUは危機感を強め、2020年12月11日のEU首脳会議で7500億ユーロ(100兆円)規模の復興資金のうち、3割以上を風力発電、グリーンモビリティ、化石燃料転換などに使うことを宣言しました。また、EU首脳は「EUには広大な海盆と業界のリーダーシップ、洋上風力はサクセスストーリーがある」という強気な発言をしてきました。
アメリカに関しては、バイデン政権が誕生してから気候変動対策に関してはギア全開でやってきています。大統領就任当日にパリ協定復帰の大統領令にサインしたほか、新型コロナ対策の1.9兆ドルに加え2.3兆円のインフラ整備資金の約束をしたり、富裕層に対する課税強化などで財源を確保したりしました。また、カーボンニュートラルに関してはEUと比べると保守的な姿勢を見せていたのですが、2030年までに2005年対比で50〜52%CO2削減、22030年までに新車販売の50%をEV、FCV、PHVにする方針、2030年までに発電量の80%をクリーンエネルギーにする方針を表明するなど、どんどん目標を名言したんです。
バイデン氏が米大統領選の当選を確実にしたのは2020年11月なのですが、習近平主席が2020年9月に演説したことはタイミング的に大きな意味がありました。中国はアメリカの政権が変わり、脱炭素に向けた取り組みを発表するだろうという目論見があったため、アメリカが取り組みを発表する前に中国がカーボンニュートラルのトレンドをリードしようという狙いがあったと思います。
世界がゼロカーボン市場にこだわるワケ
なぜ、世界各国はゼロカーボン市場にこだわるのでしょうか。ひとつはコロナによって経済がダメージを受けていることがあります。何らかの形で経済を復興しないといけない。その中心にゼロカーボン市場がある、という認識です。この市場は大きく、ありとあらゆるマーケットに絡むこともあり、1000兆円単位の市場とも言われています。ITも関わってくるので、経済競争の最も中心的な市場になっていくはずです。
また、技術の範囲が広く、再生可能エネルギーや新燃料、交通、化学、バイオ、不動産、建設、ナノテク、コンピュータなど、ほとんど関係しない業界がないくらい幅広い。さらに最先端技術がふんだんに投入される市場でもあります。
つまり、この市場で負けるということは?端技術を含めた市場で劣後することを意味する。今後の国の盛衰に大きな影響を及ぼしている、というわけです。
昔は蜜月だったアメリカと中国の関係性
アメリカが中国に脅威を感じるようになったのは、習近平主席が演説する前に中国が「中国製造政府2025」という産業政策を発表した頃からです。・・・(続く)
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