有識者セミナーレポート

元パナソニック新規事業担当者が語る事業立ち上げを成功に導く イントレプレナーの思考法

新規事業開発では、アイデア創出、事業の立ち上げ、事業の推進など異なる種類のスキルが求められます。その中でも、事業の立ち上げや新しい事業をより大きな事業に成長させていく力は、新規事業開発において不可欠です。
今回はパナソニックで30年近く、60件の新規事業や社内ベンチャー制度の企画/運営、社内ベンチャーの経営に携わってきた岩井利仁氏をお迎えし、新規事業の立ち上げや推進に必要なスキルについてお話いただいた様子をレポートします。

登壇者プロフィール

岩井 利仁氏
経営パワー株式会社 代表取締役社長 中小企業診断士
元パナソニック株式会社 新規事業担当

新卒で元松下電器産業株式会社/パナソニック株式会社に入社。28才から新規事業担当となり、パナソニック初の社内ベンチャー制度を自ら立案し、その制度により34歳で業務システムのインテグレーター創業社長に就任。
パナソニックを55才で早期退職後、経営パワー株式会社を創業。パナソニック時代に新規事業を約60件、会社設立や支援をした経験をもとに、事業化プロデューサーとして、大企業〜中小企業、大学まで幅広い事業支援や事業アイデアをどんどん出せる「テレビメモ術研修や通信教育」を多数行なっている。

新規事業の立ち上げで大事なのは「新規事業スキルの基礎力」があるかどうか

大きな組織における新規事業はなぜ、失敗確率が高いのか。この理由を「個人」と「組織」の2つの面から話をしていきたいと思います。まず個人についてです。

最初に質問したいと思いますが、みなさんはプロ野球選手はなぜ、プロになれた思いますか? さまざまな答えがあると思いますが、私が考える答えは「たくさん練習したから」です。たくさん練習したからこそ、プロ選手になれたわけです。

この図を見ていただきたいのですが、スポーツ競技においてはまず自宅でのトレーニングも含めて、基礎トレーニングを徹底的にやると思います。その後、チーム内の練習試合など擬似的な実践をし、そこで選ばれたメンバーがアマチュアの地域の大会に出ます。

スポーツ競技は勝負事ですから、試合をすれば必ず負けるチームが出るものです。いざ試合に負けると、なぜ負けたかを分析します。その結果、自分たちに力がないことが分かり、そこから練習を本気で行うようなります。

今までは「練習しなければいけない」と言われて取り組んでいましたが、実践を経験することで自分の力のなさを感じ、本気で練習するようになります。この一連のサイクルを何度も何度も経験して、最終的に力が備わった人だけが実力あるプロになれるのではないでしょうか。

これをビジネスの世界にも置き換えてみましょう。まず、一般の方が考える新規事業の基礎トレーニングは何かと言うとビジネス書を読んだり、セミナーに参加したりする程度かと思います。ただ、大半の人たちは新規事業セミナーなどには新規事業の担当になってから参加しています。また、ビジネス書も新規事業担当になってから一生懸命読むわけです。しかし、ビジネスの世界では、実践練習をする場所はありません。その結果、知識武装の時間もなく、ぶっつけ本番で新規事業の立ち上げに臨むことになります。もちろん、ビジネスはプロの世界ですから、アマチュアの状態では勝てるわけがありません。だからこそ、新規事業はほとんどが失敗してしまうのです。

新規事業を立ち上げるにあたって、大事なことは、推進担当者に新規事業基礎力を身につけてもらうことです。新規事業は取り組む人が、事業を立ち上げていくことを考えると、新規事業制度をいろいろ工夫するよりも、担当者の能力開発に最初に力を入れる必要があると思います。

座学研修や通信教育研修などで基礎力を身につけ、そのあとは“具体的な取り組み”という形でPDCAサイクルをとにかく早くまわしていくこと。大きな組織の人たちは、石橋を叩くことを重視しますが、それでは早さ、回転数が弱くなってしまいます。新規事業の場合は、早く動くことを意識すると勝ち目につながると思います。

違った観点から新規事業について考えてみましょう。新規事業は「氷山」だとイメージすると分かりやすいかもしれません。図にある波線が水面だとした場合、上に出ている部分は自社もしくは自分が知る世界です。この氷山の一角だけを見て事業アイデアを検討するから、結果的に失敗しやすいのです。新規事業は自分が知らない業界やトレンドにこそ可能性がある。だからこそ、自分が知らない業界やトレンドを知ることができれば、他社や他人に勝つ可能性が高まると考えます。

新規事業のアイデア創出を楽しくする「テレビメモ術」

次は個人のメンタル的な側面から新規事業を考えてみます。みなさんが考える新規事業の個人的メリットとは何でしょうか。こちらも同様にさまざまな答えがあると思いますが、「新規事業は、個人の人生における新しいチャンス」だと思います。

組織内で新規事業の担当者に選ばれた場合、上司から急に呼ばれて「来月から、専務の指示で、新規事業を早急に立ち上げることになった。ぜひとも、(優秀な)君にやってほしい」といった形で声がかけられます。そうなった場合、多くの人は心のうちで「なんで、私が担当なの? 新規事業なんてやったことがない。実績が出るまでに時間がかかり、人事評価が下がる。先輩は失敗して更迭された。不安だ。できれば避けたい」と思うのではないでしょうか。

私は、松下電器/パナソニックで28才から新規事業の立ち上げを60件ほど経験し、30代では社内ベンチャー制度を自分で創り、社長業を経験しました。振り返ってみると、良いトレーニングだったと思います。新規事業の立ち上げを経験することは、今後の人生・キャリアでもとても役に立ちました。「なんで私が担当?」ではなく、「ありがたい、チャンスだ」と思ってはどうでしょう。

次に、新規事業をつまらなく感じてしまう背景には、取り組み方にも課題があると思っています。一般的な新規事業の取り組み方の場合、新規事業経験の無いコンサルタントから、最初にPEST分析、3C分析、4C/4Pなど、フレームワーク理論を学びます。次に、自社の強み・弱みなどの事業環境分析をスタートするわけですが、その時点でつまらないと感じてしまうことがあります。なぜなら、フレームワークを活用しなくても、自社が抱えている課題を十分理解しているが解決できない現実があるからです。

・・・(続く)

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