有識者セミナーレポート
「製造業DX EU/ドイツに学ぶ 最新デジタル戦略」著者 福本氏に学ぶ インダストリー4.0と製造業DX~これからの日本の製造業に求められる『変革』とは~
インダストリー4.0発表から13年が経ち、DXは企業に着実に浸透しています。独⽴⾏政法⼈情報処理
推進機構の最新調査によると、DXの取組において、設定した⽬的に対し「成果が出ている」と回答し
た企業の割合は、2022年度の 58.0%から2023年度は 64.3%に増加しました。
そこで今回は、合同会社アルファコンパス 代表CEOの福本⽒をお迎えし、「海外の先⾏事例を交え、
⽇本の製造業が今後どのようにDXを⾏うべきか」についてお話いただいた様⼦をレポートします。
登壇者プロフィール
福本 勲 ⽒
合同会社アルファコンパス
代表CEO1990年3⽉、早稲⽥⼤学⼤学院修⼠課程(機械⼯学)修了。同年に東芝に⼊社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業⽴ち上げに携わり、その後、インダストリアル IoT、デジタル事業の企画‧マーケティング‧エバンジェリスト 活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」を⽴ち上げ、編集⻑を務め、2024年に退職。
2020年にアルファコンパスを設⽴し、2024年に法⼈化、企業のデジタル化やマーケティング、プロモーション⽀援などを⾏っている。また、複数の企業や⼀般社団法⼈のアドバイザー、フェロー、NewsPicksプロピッカーなどを務めている。
インダストリー4.0の現在地
社会や産業に求められる変化
現在、第4次産業⾰命と⾔われる時代を迎え、各国で多様なプロジェクトが⽴ち上がっています。その筆頭と⾔われるのが、ドイツの国家プロジェクトである「インダストリー4.0」です。これは2011年のメルケル政権下で発表され、今年13年⽬を迎えることになりました。この間、⽇本はデジタル化の取り組みににおいて、既存ビジネスの延⻑線上での効率化に終始してきました。
⼀⽅、ドイツをはじめとした欧⽶のデジタル化の取り組みは、社会や経済基盤の再設定という観点で着実な歩みを遂げてきています。化⽯燃料からカーボンニュートラルへ、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへ、集中型から分散ネットワーク型へと、不可逆的な移⾏が現在進⾏中であると思っています
第1次産業⾰命での機械化が起きて以来、私たちは化⽯燃料や地球資源に依存し、⼤量⽣産‧⼤量消費‧⼤量廃棄を⾏うリニア型(⼀⽅通⾏型)の産業社会システムの枠組みの中で、経済活動を営んできました。
地球温暖化、資源の⼤量廃棄、環境汚染といった問題が深刻化する中、このままでは地球が持続不可能になる可能性が⾼まっています。地球環境問題という全地球的な社会課題に取り組むため、温室効果ガス排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルや、資源を循環させるサーキュラーエコノミーなどへの転換の動きが、グローバル規模で急速に広がってきていると思います。
また、再⽣可能エネルギーも広く偏在する資源だと思います。これらを都市鉱⼭などを経由して再利⽤する取り組みも重要になるでしょう。このように、資源があらゆる場所にあるという⽴場に⽴てば、様々な場所に存在する設備や資源をうまく繋ぎ合わせる必要が出てくると思います。
リユースやマッチングが進むにつれ、産業の枠組みも従来の垂直統合型‧集中型から、網⽬状に繋がる分散ネットワーク型へ移⾏していくと考えられます。この動きは不可逆的に進んでいくと⾒ております。つまり、固定的なサプライチェーンから緩やかなエコシステムへの変⾰が求められているということです。
そして、これを実現する⼿段の⼀つが、デジタルやネットワークを⽤いたデジタルトランスフォーメーション(DX)であると考えています。
EUのデータ連携基盤を巡る最近の動き
新型コロナにより中⽌になった2年間を除き、2016年以降毎年4⽉頃にドイツで開催される「ハノーバーメッセ」には⽋かさず視察に⾏っています。今年も多くの企業がサステナブルな取り組みを実現するショーケースを展⽰していました。
昨今は、欧州でもカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーといったサステナブルな取り組み、あるいは新型コロナウィルスや地政学リスクへの対応を踏まえたビジネスのサプライチェーン構築の必要性が求められるようになってきています。
ドイツではオートノミー、インターオペラビリティ、サステナビリティをキーコンセプトに、2019年に「2030 Vision for Industrie 4.0」を発表しております。また、製造業におけるサステナビリティを具現化していくための道筋やビジネスユースケースを紹介したレポート「Sustainable production」を2021年に発表しています。⼀⽅、EUの欧州委員会は、ヒューマンセントリック、サステナビリティ、レジリエンスをキーコンセプトとした「インダストリー5.0」を2021年に発表しております。
ドイツの「インダストリー4.0」は、当初からデジタルファクトリーからデジタルエンタープライズ、デジタルエコシステムを経て、デジタルエコノミーへ向かうという概 念が語られてきています。これを実 現するため、様々なイニシアティブやプロジェクトが⽴ち上がっています。⽇本では、ドイツのインダストリー4.0 を製造業や⼯場内の取り組みと捉える⽅が時々いらっしゃいますが、インダストリー4.0は最初から企業を変⾰し、エコシステムを構築し、デジタルで経済を変えていくための取り組みを標榜しています。その⼀番最初の対象がたまたま製造業だった、という位置付けです。2016年に International Data Spaces Association(IDSA)が設⽴され、ドイツはその段階で既にデータ主権に関する標準策定を開始しています。
そして、欧州統合データ基盤プロジェクト「GAIA-X」が 2020年に⽴ち上がり、蓄積、処理、活⽤されるデータの管理をEU⾃⾝で実⾏できる技術環境の整備、EU独⾃のデータインフラの構築が始まりました。その中で、ドイツの基幹産業であり、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーといったサステナブルな取り組みにおいても注⽬度が⾼い⾃動⾞業界のユースケースに先⾏して取り組みを開始しました。
さらに、⾃動⾞業界に最適化されたデータ連携基盤の開発環境プラットフォームの提供を開始します。この取り組みを推進しているのが、GAIA-X上のユースケースである Catena-X オートモーティブネットワークです。この Catena-X をブループリントとし、製造業全体に展開する Manufacturing-Xイニシアティブは2022年末に発⾜しました。2023年には、Catena-X上で Apple の AppStore のようなアプリケーションマーケットプレイスを運営するジョイントベンチャー企業「Cofinity-X」が設⽴されています。
この企業の設⽴は、データ基盤の取り組みや協調領域であるオープンソースソフトウェアの共通基盤開発から、上位の競争領域であるアプリケーションやサービスのレイヤーへと移⾏しつつあることを意味していると思います。
・・・(続く)
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