有識者セミナーレポート
再生医療の産業化を加速する、パナソニックの挑戦
~“モノづくり技術” が拓く、がん治療の未来〜
再生医療、特にiPS細胞を用いた細胞治療は、これまで根本的な治療法がなかった疾患を治す可能性を秘めた技術として期待されています。しかし、その製造プロセスは熟練者の手作業に依存しており、一人分あたり数千万円という高額なコストや品質の不安定さが、普及を阻む大きな壁となっています。
この課題に対し、パナソニックグループは「製造業」として培ってきた“モノづくり技術”を武器に、再生医療の産業化(=自動化・低コスト化)という新たな挑戦を進めています。
本セミナーでは、パナソニック ホールディングス株式会社 MI本部 先進メカトロニクスシステム開発センター 再生医療ソリューション部 部長の大脇 圭裕氏が登壇。なぜパナソニックが再生医療に取り組むのか、その背景にある「製造業×再生医療」の可能性と、異分野への挑戦だからこそ直面した「新規事業の壁」、そしてそれを乗り越えるためのリアルな視点について、詳細に語られました。
登壇者プロフィール
大脇 圭裕 ⽒
パナソニックホールディングス株式会社
MI本部 先進メカトロニクスシステム開発センター
再生医療ソリューション部 部長
パナソニック(現・パナソニックホールディングス株式会社)入社後、リチウムイオン電池などの製造装置開発に従事。東南アジアでの装置開発責任者、国内でのGX関連・半導体製造装置の開発戦略企画を経て、現在は免疫細胞など再生医療に使われる細胞を自動製造するソリューションの開発・事業化に取り組む。再生医療の普及を工学技術で支える取り組みにより、高品質・低コストな細胞製造実現への挑戦を続けている。
はじめに
自己紹介と今日のキーワード
ご紹介いただきました、パナソニック ホールディングスの大脇です。私はこれまで15年以上、製造装置の開発や自動化一筋で携わってきました。リチウムイオン電池や太陽電池といった装置の開発、工場の量産導入などを担当しており、新規事業を連発してきたような新規事業のプロフェッショナルではありません。
今進めているプロジェクトも決してスマートに進んでいるわけではなく、泥臭くいろいろな壁にぶつかりながら乗り越えようとしている最中です。本日は、そうしたリアルな姿から何か皆様の気づきになる点があれば幸いです。
今日のキーワードは3つあります。
1つ目は「製造業」、2つ目は「再生医療」です。この一見つながりがなさそうな2つの領域に対し、私たち製造業がどう貢献できるのか、その事例をご紹介していきます。
そして3つ目のキーワードが「新規事業」です。私たちは再生医療への貢献を新規事業として進めており、まだまだ研究開発段階ですが、新規事業ならではの様々なハードルに直面しています。後半では、その壁をどう乗り越えようとしているかにも触れたいと思います。
パナソニックグループの概要
まずパナソニックグループについて簡単にご紹介します。
当グループは約500社から構成されており、「何の会社かわからない」と言われることもあるほど、多様な商品を扱っています。
皆さんは、白物家電やテレビ、デジタルカメラはご存知かもしれませんが、テスラ社の電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池や、皆さんが飛行機に乗られた際に映画をご覧になる機内エンターテインメントシステムなども手掛けています。実は、売上の大部分は企業向け、BtoBの製品が占めているのが特徴です。
グループはパナソニックホールディングスの傘下に6つの事業会社が連なる体制をとっています。私はパナソニックホールディングスの技術部門に所属しており、そのミッションは「私たちがいなければ生まれなかった世界をつくる」ことです。私はその中でもモノづくりに関する研究開発や、それを起点とした新規事業を開発しているMI本部という部門に所属しています。
再生医療の現状と課題
本日は、「再生医療」、「製造業×再生医療」、「新規事業の壁」という3つの構成でお話しします。
iPS細胞と細胞治療とは
まず「再生医療」を語る上で欠かせないのが、山中先生がノーベル賞を受賞されたiPS細胞です。
iPS細胞の大きな特徴は2つあります。
1つは「ほぼ無限に増える」こと。通常の細胞は分裂回数に制限がありますが、iPS細胞は無限に増殖できます。もう1つは「あらゆる生体組織に成長できる」こと。皮膚の細胞が心臓の細胞になることはありませんが、iPS細胞は皮膚にも心臓にもなれる、まさに「万能細胞」です。
このiPS細胞は、患者さんの皮膚や血液などの体細胞に4つの遺伝子を導入して作製されます。
このiPS細胞が活用されているのは、主に「病気の原因究明」「新薬の開発」、そして「再生医療」という3つの領域で、本日私がお話しするのは3つ目の再生医療の領域についてです。
再生医療とは、人工的に培養した細胞や遺伝子を使い、病気やケガで失われた組織を治す治療法です。パーキンソン病や心臓病 、糖尿病 、目の病気など、これまで根本的な治療が難しかった疾患を治すことが期待されています。
私たちが今向き合っているのは、この中でも免疫を使った「細胞治療」という領域です。
・・・(続く)
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