有識者セミナーレポート

ビザスクdirect ローンチ記念『世界標準の採用』著者
小野氏に直接 “聞ける”〜スタートアップの人材獲得戦略と攻めの採用とは〜

採⽤市場が激化し、特にスタートアップにとって優秀な⼈材の獲得は事業成⻑の⽣命線となっています。こうした状況下では、従来の「待ちの採⽤スタイル」はもはや通⽤しません。これからの時代に求められるのは、経営戦略と⼀体となった「攻めの採⽤」、すなわち「タレントアクイジション(TA)」です。

本レポートは、2025年9⽉26⽇に開催したセミナーの内容をまとめたものです。登壇したのは、『世界標準の採⽤』の著者であり、グロービス‧キャピタル‧パートナーズにて数多くの急成⻑企業の組織構築を⽀援してきた⼩野壮彦⽒。⽒は、著書『⼈を選ぶ技術』のアップデート情報を交えながら、今後の採⽤における新たなパラダイムとなる「TAモデル」の全体像を提⽰し、さらにそれを組織に実装し、具体的な成果につなげるための実践的な⽅法論までを詳細に解説しました。

採⽤に関わるすべてのビジネスパーソンが「候補者に選ばれる企業」となるためのヒントをお届けします。

登壇者プロフィール

小野 壮彦 氏
グロービス・キャピタル・パートナーズ
Principal, Value Up

グローバル展開するエグゼクティブサーチファームにて、経営層に特化したヘッドハンティングおよび⼈材アセスメント業務に10年間従事。現在は、⽇本最⼤級のベンチャーキャピタルであるグロービス・キャピタル・パートナーズのバリューアップチーム「GCP X」のリーダーとして、急成⻑スタートアップのリーダーシップ開発および組織構築⽀援を多数⼿がける。著書に『⼈を選ぶ技術』(フォレスト出版)、『世界標準の採⽤』(KADOKAWA)がある。

採⽤における⼤前提

3年前に『⼈を選ぶ技術』という本を出させていただき、ありがたいことに様々な反響をいただきました。その中で、私⾃⾝も当時書いたことが少し⾔葉⾜らずだったと感じる部分や、その後の研究や事例を通じて、よりコンセプトが明確になってきたことがあります。 本⽇はそのアップデート情報から2点お話しします。

書籍では「⼊り⼝で悪⼈を採⽤しないことが⼤事」という話をしました。 これが少し抽象的だったと反省しており、より現場レベルで「避けるべき悪」とは何かを⾔語化すると、「ナルシズム系の⼈間は、どんなに優秀でもとにかく排除した⽅がいい」ということです。

ナルシズム、つまり⾃⼰愛が強い⼈材には2つのタイプがあります。⼀つは、過⼤妄想的に「⾃分は本当はそうでもないのに、すごく優秀な⼈間だ」と思い込んでいるタイプです。この⾃⼰評価と現実のギャップが⼤きいタイプは、コーチングやトレーニングで修正することが⾮常に難しく、フィードバックが効きにくい傾向があります。もう⼀つは、⾃分の成果を⼤したこともないのにすごいことのように「盛る」タイプです。どちらも会社にとっては良くありません。

では、こうした⼈材をどう⾒抜くか。私が今のところ最も有効だと考えているのが、⾯接での「転職理由」の確認です。「なぜ前の会社を辞めるのですか?」といった典型的な質問に対し、「⾃分はちゃんとしていたけれど、会社が悪かった」「⾃分は悪くない、周りが悪かった」といった趣旨の説明をする⼈がいます。また、前職の会社を必要以上に悪く⾔う⼈も同様です。こうした他責的な傾向が⾒られる⼈は、採⽤しない⽅が賢明です。これは私が投資先の企業様にもお伝えしている重要なシグナルです。

もう⼀つのアップデートは、ポテンシャルを⾒抜く概念として提唱した「ソースオブエナジー」についてです。 ソースオブエナジー、つまりその⼈を突き動かす根源的なエネルギーの存在⾃体は、⼈を⼤きく成⻑させる上で⾮常に重要であり、その確信は今も強まっています。

しかし、本を読んでくださった何社かから「⾯接プロセスにソースオブエナジーを確認する質問を取り⼊れました」という報告をいただき、それはあまり有効ではないとお伝えしています。なぜなら、ソースオブエナジーはポテンシャルよりもさらに深い、その⼈の根源に関わる話です。そんな本質的な話を、⾯接というフォーマルな場で候補者が正直に話してくれる可能性は低いでしょう。もし話してくれたとしても、それは⾯接対策として⽤意されたものである可能性があり、本当のエネルギーの源泉かどうかは疑わしいと⾔えます。候補者が会社に「合わせにきている」可能性があるため、⾯接でソースオブエナジーについて聞くことは推奨できません。

新しい採⽤のパラダイム「TAモデル」

ここからは2冊⽬の著書『世界標準の採⽤』でお話ししている「タレントアクイジション(TA)」について解説します。スタートアップ界隈では、この半年ほどで「タレントアクイジション」という⾔葉がかなり市⺠権を得てきたように感じます。
私は、このTAという⾔葉が新しい時代の採⽤のキーワードとして定着していくと良いと考えています。かつて「IT化」という⾔葉がより次元の⾼いコンセプトを持つ「DX」に変わったように、採⽤も古いパラダイムから新しいパラダイムへ移⾏すべきです。そして、TAという⾔葉を聞いたときに「能動的」「アセット型」「トップダウン」という3つのキーワードが想起される状態になることが、⽇本の採⽤⼒を⾼める上で重要です。
この新しいパラダイムの本質は、3つの⼤きな変化に集約されます。

第⼀に、パワーが企業から個⼈へと完全に移っているという現実を認識することです。かつての⼤企業のような「会社が雇ってあげる」という姿勢はもはや通⽤しません。特にスタートアップや外資系企業の世界では、キャリアの中で複数回の転職を経験するのは当たり前になっており、その流れは⽇系の⼤企業にも及んでいます。個⼈が⾃⾝のキャリアを主体的に選択する⼒が強まっている現代において、企業は「お⾒合い」をするような姿勢で候補者に向き合い、「選んでいただく」という関係性を築く必要があります。

第二に、「トップタレント」の定義を正しく理解することです。トップタレントとは、いわゆる経営層などの「ハイレイヤー」だけを指す言葉ではありません。新卒や第二新卒、年収800万円クラスのミドルレイヤー、そして2,000万円クラスのCXO人材まで、実はすべての階層にトップタレントは存在します。そして、それぞれの階層でトップタレントの争奪戦が繰り広げられています。

さらにその上には、一人で会社の時価総額を変えてしまうほどのインパクトを持つ「パワータレント」と呼ばれる存在もいます。例えば、画期的なAIエージェントを開発するエンジニアや、一人で数億円の案件を受注するトップセールスなどがこれにあたります。このようなトップタレントやパワータレントをいかにして獲得するか、自由競争はますます激化しています。



・・・(続く)

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